孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフリカ  ローマクラブ「成長の限界」から35年、「地球環境概況4」

2007-10-29 13:14:15 | 世相

(タンザニア “flickr”より By World Bank Photo Collection )

国連環境計画(UNEP)は地球環境の変化や社会状況が人類に与える影響などについて調査した報告「地球環境概況4」をまとめ25日に発表しました。
この報告で、現在の地球環境への対応は十分ではなく、「このままでは人類の生存を脅かすかもしれない」とこれまでで最大級の警告をしています。

この種の地球環境危機報告というと、1972年のローマクラブによる「成長の限界」を思い出します。
ローマクラブ報告は人口増加に着目した予測シュミレーションでしたが、「現在のままで人口増加や環境破壊が続けば、資源の枯渇や環境の悪化によって100年以内に人類の成長は限界に達すると警鐘を鳴らしており、破局を回避するためには、地球が無限であるということを前提とした従来の経済のあり方を見直し、世界的な均衡を目指す必要があると論じている。」【ウィキペディアより抜粋】という非常に悲観的な内容でした。

あまりにも悲観的なローマクラブ報告には「技術によって新しい資源が見つかり代替エネルギーが開発されれば限界は超えられる可能性を無視している」「昔からある“マルサスの悪魔”の焼き直しではないか」という意見など、当時からも批判がありました。
報告内容については当時も今も正確には把握していませんが、あれから35年たって、“行動パターンを変えない限り破滅に向かう”という悲観的な見方を一蹴できるほど事態が好転しているようには見えません。

今回の「地球環境概況4」の要点は下記AFP記事にまとめられています。
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2303373/2282828
温暖化、水不足、大気汚染などの危険が報告されています。

この中に、特にアフリカに言及したものが2点含まれています。
・アフリカでは、1人当たりの食糧生産量が1981年以降12%減少した。
・アフリカの貧困率は、1985年-2000年の15年間で47.6%から59%に急増した。

アフリカの食糧事情については、先日来日した国連世界食糧計画(WFP)のジョゼット・シーラン事務局長による「9割以上を雨水に頼るアフリカの農業生産量は20年までに現在の半分になるとの予測もあり、食料供給に重大な打撃を与える」、「穀物価格高騰と共に、気候変動が世界の食料事情にとり真の課題だ」という指摘が報道されています。
なお、バイオ燃料ブームのほか、中国などの食料需要増加に伴う穀物価格高騰で、WFPの食料調達コストは過去5年間で5割上昇、「今後、WFPの食料の調達や供給量が大幅に減ることもある」とも訴えています。【10月16日 毎日】

一方、世界銀行のロバート・ゼーリック総裁は、21日開催された総会で、農業を貧困対策の中心に据えると同時に、これ対し民間金融機関を活用する方針を表明したそうです。
ゼーリック総裁は政策を決定する開発委員会で「アフリカからのさまざまなニーズに応えられる21世紀の『緑の革命』が必要だ」と指摘。
新たな対策は、農業の脆弱性に対し援助を行っていく一方、技術研究への投資の拡大、持続可能な土地管理、市場機会の強化政策などから手を付けていくと述べたとのこと。
世界銀行報告書は、およそ9億人が1日当たり1ドル以下の暮らしを強いられていると見積もられている貧困国の農業部門への融資拡大を掲げているそうです。【10月22日 AFP】

世界の貧困層の75%が農村部に住んでいると言われており、農業部門の改善が貧困対策として、また社会全体の安定化・進展のために不可欠なのは論をまたないところです。
食糧が不足すればそれを奪い合う紛争も激化し、内乱状態は更に農業に打撃を与え貧困が増加・・・という悪循環を招きます。

ただ、これまで世界銀行などがリードしてきた開発モデルは、ややもするとグローバリゼーションの中に現地農業を巻き込み、従来からの農業生産構造・システムを破壊し、一部大資本の利益は向上したものの多くの農民が土地を失なったり困窮を深める・・・といった結末を迎えることも多かったとの批判があります。

“技術研究への投資の拡大、持続可能な土地管理、市場機会の強化政策”・・・くれぐれもマクロ的な数字だけでなく、個々の現地農民の視点にたった政策を期待したいものです。
しかし、現実にはそのような政策を遂行・担保すべき民主的な政治システムがアフリカの多くの国では機能していないという問題が、特権的な者の利益のみが膨れ、多数の貧困農民は更に貧しくなるというような事態をあちこちで招いている実態があり、あまり期待を持てないのが残念です。

日本経済はバブル崩壊や長期低成長などを経験してきましたが、“長い目で見ると人々の暮らしは次第に改善されていくものだ”という常識(思い込み?神話?)がありました。(格差・貧困の拡大、年金破綻など、最近では随分怪しくなっていますが。)
そうした日本的感覚からすれば、ここ15年、20年間の農業生産の大幅減少、貧困率の上昇、更に今後「農業生産が半減する」という予測・・・こうしたアフリカの現実・将来は“異常”としか言いようがありません。
イランの核がどうこうといったことよりも、こういう面に目を向けてほしいものです。

コメント
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