孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

チベット 鉄道開通で変容する社会

2007-10-08 10:46:48 | 国際情勢

(青蔵(チベット)鉄道の車窓から 高地を走るので酸素吸引装置も設置されています。 観光的には非常に魅力的なコースです。 “flickr”より By seric )

チベットは1956年のチベット動乱、ダライ・ラマの亡命、亡命政権樹立など、中国が抱える大きな民族問題のひとつですが、中国政府当局はチベットの民族・文化の根底にあるチベット仏教へのコントロールを強めるため、8月には「活仏(生き仏)の転生を中央政府の許可制とする「チベット仏教活仏転生管理規則」を9月から導入すると決定した。」と報じられています。

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中国政府はチベット仏教で活仏と呼ばれる高僧の転生に9月1日から申請許可制度を導入。「活仏転生は国家統一、民族団結、宗教和睦(わぼく)と社会の調和維持の原則に基づくこと」「すでに排除されている封建特権を復活させてはならない」「外国や個人の干渉と支配を受けてはならない」とも規定した。活仏に対しては同局から「活仏証明書」が発行される。
チベット仏教では活仏は死去したのち、そのまま別の人間に生まれ変わるとされ、生まれ変わりは預言や神秘現象などをもとに高僧らが探しだし活仏に指名する。とくに最高指導者のダライ・ラマ、それに次ぐ地位のパンチェン・ラマは相互に後継者を指名し合う仕組みだ。しかしこの規則により、チベット仏教指導者は事実上、中国政府が選出する制度が確立されることになる。【8月8日 産経】
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活仏を中国共産党政府が選出する「活仏証明書」というのは部外者には笑い話ですが、チベットの文化・民族からすれば乱暴極まりないものでしょう。
ただ、このような強権的な手法によらずとも、恐らく今後チベット社会は急速にその独自性を薄める方向で変容するであろうことが、昨日のTV番組『シリーズ 激流中国 チベット 聖地に富を求めて』(NHK)を観ていて感じられました。

青海省西寧とチベット自治区首府ラサ(拉薩)を結ぶ高原鉄道“青蔵鉄道”が昨年7月に開通。
開通後、チベットを訪れる観光客と観光収入はわずか半年間に40%増え、チベットは今観光ブームに沸いています。
一方、外部の資金や文化の大量流入で大都会に憧れる地元の若者も続出し、伝統文化の崩壊も進んでいます。
その様子を、ある漢族オーナーが経営する豪華ホテルを中心に紹介した番組でした。

“チベット文化”という視点を離れて、一般論として、牧畜に頼った現金収入の少ない生活・人々の意識が市場経済のもとでどのように変容していくか・・・という点でも非常に興味深いものでした。

家族の生活を改善したいとそれまでの生活を離れてホテルのサービス業で働く人、古い生活道具が骨董品として高値で売買されることを知りそれらを売ろうとする村人、買い集めた骨董品を都会で10倍以上で売りさばく漢族オーナー、そんな骨董品売買を自分でもやりたいと思う現地の従業員、仏像などをホテルに展示して集客するホテル、仏教の法要をもショーとして企画するホテル、高僧との交渉でテーブルに置かれた現金、ホテル従業員への能力給制導入、その制度に馴染めずホテルを辞める従業員・・・

まだ、仏像を骨董品として売ることには村人は抵抗を示していますが、あと数年もすればそれもどうでしょうか・・・。
市場経済に巻き込まれた人々の暮らしは、急速に変容していくことが予感させられました。
そして単に市場に任せるだけでは、伝統社会を破壊し、一握りの勝者と大勢の競争からの脱落者を生み、伝統価値重視へ回帰した過激な運動などの新たな社会不安を引き起こすのではないかということも感じます。
本来共産主義国家であるはずの中国では、ときに資本主義国家以上にむき出しの資本の論理の貫徹、拝金主義の横行が見られます。

現在ラサには漢族が大量に流入し、すでに人口はチベット族を上回っているとか。
中国政府の青海鉄道建設の思惑どおり、大量の物資・資本・人口の流入で、“チベットの開放・改革”、“チベットの中国化”は一気に進展すると思われます。

コメント
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