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洗濯物は前の晩にネットに仕分けて入れてあるので、朝起きるとすぐに洗剤と柔軟剤をセットしてスイッチを入れます。
洗濯機が回っている間に、着替えと朝食をすませます。
リョウマくんにはおかゆをつくってくれました。
とろとろのご飯は、かむとほんのり甘みがあります。
その日はとてもいいお天気でした
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キョウシロウさんは洗濯物を干すと、仕事に出かけて行きました。
昨夜汚れたお布団も、洗濯物と一緒に干されています。
お昼前に、キョウコさんがごそごそ起き出してきます。
キョウコさんはとても朝寝坊です。
そして、とても面倒くさがりなので、キョウシロウさんのように、自分とリョウマくんのご飯を別々につくったりしません。たまごとじうどんをつくって二つに分け、リョウマくんに食べさせました。
ふわふわのたまごとじうどん。
おばさんのつくるような、白身と黄身が分かれてしまっている卵とじではありません。全体が黄色い、ふわたまごです。
朝はちゃんと間に合うようにトイレにいけたリョウマくんですが、お昼は失敗してしまいました。ほんのちょっと間に合わずに、トイレの床を汚してしまいました。
怒られるかと思いましたが、キョウコさんは、
「ちゃんとトイレまで来れてえらかったね。次はもうちょっと早くいこうね」
と言って、またお風呂場でお尻を洗ってくれました。
ちょうど起きたついでなので、おふとんを取り入れて敷き直しました。
おふとんは、お日様をいっぱい吸ってやわらかくふくらんでいます。
寝ころぶとふかっとします。
この感触にも覚えがあります。
まだ、お母さんがいた頃のことです。
リョウマくんはお母さんが布団を取り入れると、すぐとびのってふかふかの感触を楽しみました
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あちこちぽふぽふやっていると、お母さんは、
「あんまりやるとぺちゃんこになっちゃうから、夜までがまんね」
と言って、リョウマくんをおふとんから引きはがしました。
ふわふわのたまごとじうどんやたまごとじごはんもよくつくってくれました。
リョウマくんはふわたまごが大好きでした。
お母さんがいなくなって、リョウマくんの世界は一変しました。
大好きだったご本もおもちゃも、みんなどこかへ消えてしまいました。
リョウマくんの手元に残ったのは、お洋服がいくつかとクマさんだけでした。
リョウマくんは、クマさんだけはなくさないようにいつもしっかり抱いていました。
おばさんやいとこのガンちゃんたちに、「そんな汚いクマ、すてちゃえ!」と言われると、ますますしっかり抱きしめました。
いつもそんな意地悪な気持ちばかり向けられているので、リョウマくんの柔らかい心はすぐに傷だらけになってしまいました。
これ以上傷つかないようにするには、心を凍てつかせるしかありませんでした。
お母さんがいた頃の記憶は、心の一番奥深くに鍵をかけてしまいこまれました。
お母さんも、おもちゃも、ご本も、ふわたまごも、ふかふかのおふとんも、二度と戻ってこないなら、思い出しても辛いだけです。
このおうちの、ぽかぽかの空気の中で、リョウマくんの心は少しずつゆるんで溶け出しました。
心の奥に閉じこめられていた記憶もあふれ出してきます。
幸せだった頃の記憶
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愛された子供だった頃の記憶
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リョウマくんは自分でも知らないうちにほろほろ涙を流していました
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キョウコさんがびっくりして訊ねます。
「おなか痛いの?」
リョウマくんは首をふります。
「どっか苦しいの?」
何で泣いているのかなんて、リョウマくんにもわかりません。ただもうたまらなくなって、声を放って泣き出しました。
キョウコさんはどうしていいかわからないので、そっとリョウマくんの背中をさすりました。
小さくて柔らかくて、リョウマくんの方がぬいぐるみのようです。
リョウマくんが泣きつかれて眠るまで、キョウコさんは静かにリョウマくんの背中をさすりつづけました。
キョウシロウさんが帰ってくると、家の中は真っ暗でした
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キョウコさんの靴はあるので、外出しているのではなさそうです。
もしかして、具合が悪いのかも―
キョウシロウさんが心配して家の中にかけこむと、
「キョウシロウさん? 助けてぇ~
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という声が聞こえました。声はリョウマくんのいる部屋からしたようです。
キョウシロウさんがふすまを開けると、キョウコさんがリョウマくんの布団の上に座り込んでいます。足の上にはリョウマくんがのっかって眠っています。キョウコさんはそれで動けなかったようです。
キョウシロウさんは、リョウマくんを抱え上げて寝かせ直しました。
キョウコさんは布団から這い出ると、「ひえ~」とか「きたぁ~」とか声を上げています。
キョウシロウさんはいたずら好きなので、リョウマくんに掛け布団をかけると、キョウコさんのしびれた足をつっつきはじめました。
「やめてぇ~
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ひとしきり、キョウコさんをからかうと、キョウシロウさんは、両手でキョウコさんの足をマッサージしてあげました。そして、
「今日は鍋にするぞ」
と言うと、材料を買いに出かけました
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キョウコさんは大急ぎで洗濯物をとりこみます。
キョウコさんは家で仕事をしています。
いつもなら、洗濯物の取り入れと晩ご飯の仕度はキョウコさんの分担なのですが、今日はリョウマくんが足の上にのっかって動けなかったので、どっちもできませんでした。午後にする予定だった仕事もできませんでした。
家に子供がいると、こういうことがよく起きます
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キョウシロウさんは、鍋の材料を手早く刻むと、ぐつぐつ煮込みました。
隣のコンロでリョウマくんのおかゆをつくります。
いつもリョウマくんの食事は枕元に持っていくのですが、今日は三人で一緒に食べることにしました。
リョウマくんはクマさんを抱いて食卓につきました。
クマさんを抱いたままだと食べにくいので、キョウコさんは小さな椅子をリョウマくんの隣に置きました
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リョウマくんはためらいながらも、クマさんをその椅子に座らせました。
キョウシロウさんが、小皿にたっぷり野菜や肉をよそってくれます。
リョウマくんはおかゆもおかずもたっぷり食べました。
お腹はぐるぐるせず、やわらかいうんちが出ました。
リョウマくんはお布団に戻ると、いつものようにクマさんを隣に寝かせようとしました。
すると―
それまでもぐらぐらしていたクマさんの首がもげて、頭が床に転がり落ちました。
リョウマくんは大ショックです
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つづく。