BE HAPPY!

大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

群青のミッドウェー 8

2015-10-15 20:13:39 | 群青のミッドウェー


 (このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係がありません)

飛龍からも爆撃に備えて、上空警戒のために13機が舞い上がった。爆撃機を認めると、必死で追いかける。
しかし、敵の数が多いので防御しきれない。
戦争は数だ、とおれはつくづく思った。「一騎当千」なんて言葉があるが、そんなのは「ガンダム」でもなきゃ無理だ。
ついに飛龍に爆弾が命中した。続いて3発、中部甲板に命中。
飛行甲板が使い物にならなくなり、画面に大きく「Game Over」の文字が表示された。
結局、史実通りの展開になってしまった。おれと敦はぐったりと畳に突っ伏した
「こ、こんなに、臨場感があるっつーか、やりごたえがあるっつーか、疲れるゲームは初めてだぜ」
敦は仰向けになって言った。

後はCGアニメを見るだけだ。大和の艦橋に場面が切り替わった。
大和を中心とする戦艦群はこの戦いの「主力部隊」のはずなのだが、南雲機動部隊とは別行動かと思われるような進路をとっている。
そのため、戦況がまるでわからず、えらいさんの中には、「もうそろそろ勝利の報告があってもいいのに、うんともすんとも言ってこない。どうなっているのか」なんて、のんきなことを言っている奴もいる。山本にいたっては、将棋を指していた。
そこへ、赤城がやられたという報告が飛び込んで来た。艦橋に動揺が走る
続いて、加賀の悲報がもたらされた。山本は、「ほう、またやられたか」と、落ち着き払って将棋の駒を動かした。
山本だってショックだったろうが、連合艦隊司令長官たる自分がここで慌てふためいては収拾がつかなくなると思い、あえて泰然自若を装ったのだろう。
だけど、こんなの、サッカーの監督なら即刻クビではないだろうか。
「だよなー。まあいえば、試合の最中に監督がピッチサイドを離れて将棋を指しにいってる間に、チームがめちゃ負けしたようなもんだろ。まず、次の試合は指揮させて貰えねえだろうな」
敦も言う。サッカーの監督は、それでなくてもすぐにクビをはねられてしまうのだ
この頃になっても、赤城はまだ炎に包まれて海上を漂っているという。本当に、軍艦は爆弾では沈まないんだなあ。
しかし、そのままにしておくというのも何なので、味方の魚雷で自沈させようという意見が出た。
すると、「天皇陛下の艦にそんなことをしていいのか」という反対する者がいた。どうも、えらいさんの議論というのは、現場と論点がずれているような気がする。
結局、アメリカに持っていかれるくらいならと、自沈させることに決まった。
えらいさんの中には、南雲が自決するのではないかと心配する者もいた。山本は一言、
「南雲は帰ってくるよ」
この一言に、山本の南雲に対する評価が凝縮されているような気がする。
南雲とはおよそ対照的な炎の闘将山口は、飛龍と運命を共にした。部下が、「せめて何かお形見を」と頼むと、かぶっていた戦闘帽をひょいと投げて寄越したという。映画のワンシーンのようなカッコ良さだ。
山本は、良くも悪くもこういう男らしさが南雲にないことを知っていたのだろう。
やがて、山本の予想通り、南雲が大和に到着した。さすがに画像はもとに戻っているが、十も年を取ったようなやつれようだ。
山本は南雲を責めなかった。どころか、茶菓をふるまってねぎらった。南雲にすれば、銃殺にされた方が楽だったかもしれない。
おれは、ゲームをする前に「予習」した時は、この戦いに負けたのは南雲が優柔不断だったからだと思っていた。
だが、今は、一番責任があるのは総司令官の山本ではないかという気がした。
なぜ、山本は戦闘を南雲機動部隊に丸投げして、自分達ははるか後方にいたのだろう。
せめて、戦況がどうなっているかわかる位置にいて、南雲がテンパッていたら一言指示を出してやっていれば、あんな負け方はしなかったんじゃないだろうか。山本が南雲の性格を把握していたのなら、なおのことだ。
ミッドウェー島からの攻撃を受けた時「雷装のまま待機」、『運命の5分間』の時に「爆装のまま出撃せよ」と、一言いってやっていれば、あるいは結果は変わっていたかもしれない。
敦も、「わっかんねーなあ、この人」と首を捻っている。
ゲームソフトについていたリーフレットを読むと、史実と逆の決断をしたからといって、必ずしも勝敗がひっくり返るとは限らないとあった。どんな決断にも必ずメリットとデメリットがあるからだ。
たとえば、ミッドウェー島から攻撃を受けた時、あくまで雷装のまま待機していたとしても、DF零戦が一機でも敵を通してしまえば、赤城は同じ運命を辿ったかもしれない。
その意味では、何度やっても楽しめるのだが、おれも敦も二度とやる気になれそうになかった。
重い。重すぎる
自分の国が負けるストーリーだったからかもしれないが、痛い、切ない。みんな、あんなに頑張ったのに。
やっぱり戦争はスポーツとは違う。やられたら終わりでリベンジなんかできないんだ。
父さんには悪いけど、おれはもうこのソフトは使わないだろう。
アニメが終わって、エンディングテーマが流れた。少しハスキーで可憐な女性ヴォーカルだった。


 わたしたち どこで間違えてしまったのだろう
どこまで引き返せばやり直せるんだろう
万里の波濤を乗り越える船を造っても 天翔る翼を与えられても
いつも戦いに使ってしまう

わたしたち 今頃は月に住んでいるはずだった
宇宙ステーションの窓から地球を眺めているはずだった
宇宙船に乗り込んで 星の海を進んでいたかもしれなかった
なのに まだ地上にへばりついて 血を流し合っている

わたしたち いつになったら 手を取り合えるんだろう
相手を自分色に塗りつぶすのではなく
お互い違ったままで微笑みあえるんだろう

群青の海は何も言わず ただたゆたっている
すべてをのみこんだまま 黙って揺れている   (終わり)


群青のミッドウェー 7

2015-10-08 21:59:20 | 群青のミッドウェー
   紺碧のダナウェイ~音楽は地球を救う~


 (このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません)

敵空母が三隻。
それは、つまり、1対2ではなく1対3の戦いになるということだ。これはかなりの違いだ。
メッシやネイマールも、ディフェンスが二人ならドリブルで抜いていってしまうかもしれないが、三人に囲まれるとちょっと苦しいんじゃないだろうか
なぜこんなことになったかというのは、前段がある。
ミッドウェー海戦の少し前に珊瑚海海戦というのがあった。この戦いで、日本は米空母ヨークタウンを大破した。
沈めはしなかったものの、ミッドウェー海戦には到底出てこられないだろうという程度にぶっ壊したのである。
しかし、ニミッツはヨークタウンを三日以内に修理するよう命じた。
ヨークタウンは突貫工事で修理され、つぎはぎだらけになりながらも、空母エンタープライズ、空母ホーネットと共にミッドウェー海戦に参戦した。
一方の日本は、ヨークタウンは戦闘不能と決めてかかり、最初から数に入れていなかった。
もう、この戦い、最初から最後まで情報がいいかげんだ。こんなんで戦争してたのか 帝国海軍。

そんなわけで、おれたちが敵艦の上空に近づくと、グラマンが雲霞のように群がってきた。
何しろ数が多いので、おれはつい敦の機から離れそうになる。
画面の右端で、味方の雷撃機が海面をなめるような低空飛行で魚雷をヨークタウンの後部に命中させるのが見えた。
「おれたちも、あれでいこうぜ」
敦の声に、おれも高度を下げた。今にも波をかぶりそうだ。グラマンはここまで降りてこれないようだ。
「見ろよ、すげえ芸の細かい作画だな」
風防に波飛沫が散って、細かい水滴がついている。そのうち、ヨークタウンの船体が赤く輝いた。魚雷の射程距離に入ったのだ。
味方機が後部に魚雷を命中させていたので、おれたちは前部を狙った。
投下された魚雷は水中で姿勢を安定させると、シュルシュルとヨークタウン目指して走って行く。
ヨークタウンは必死で回頭するが、多分当たるだろう。てか、そんなの最後までのんびり見定めていられない。
「敦、早く高度上げろ。体当たりする気か?」
「うわぁ、こんなとこで特攻はいやだぜ」
おれたちは、ヨークタウンの上部構造をかすめるようにして、どうにか飛び越えた。またグラマンが来襲する
自分だけなら、ぶっちぎって、一目散に飛龍に飛んで帰るのだが、敦の機を守らなければならない。
カンカンと石がぶつかるような音がして、おれの機体が何度か黄色くなった。なんか、やばい感じだ
それでも、何とか二人とも飛龍に帰り着いた。
おれの零戦は、やはりかなり被弾していて、次の攻撃には使い物にならないと、海へ捨てられてしまった
敦の機は新しい魚雷をとりつけられ、給油を受けている。おれには残っていた予備機が与えられた。
てことは、もう一回行くの? 必死のパッチで帰ってきたところなのに?
まあ、敵空母はまだ2隻いるんだからしょうがねえか。
山口は、敵空母が3隻いたことを聞いて、渋い顔をしている。
「それで小林隊の損害がこんなに大きかったんだな」
おれたちに続いて発艦した第二次攻撃隊は、おれたちがヨークタウンを大破させたので、敵空母は残り一隻だと思って出撃したらしい。
だからぁ、何でヨークタウンが大破したっていう都合のいい情報はそんなに早く伝わるのに、敵空母が3隻いたことが、今頃山口の耳に入ってるの 何かホウ・レン・ソウがなってない気がするんだよな。
しばらくして、第二次攻撃隊がエンタープライズ型空母を一隻大破させたという報告が入った。
これで、戦力は一対一だ。サシで勝負なら負けないぞ
そこへ、乗組員にぼた餅が配られた。そういえば、ミッドウェー島に攻撃をかけたのは夜明け頃だ。今はもう午後二時である。
まさに、腹が減っては戦ができないだ。
普段は洋菓子党の碧が、
「ねえ、たまに、どうしても今はあんこの甘味じゃないとダメ!っていう時がない?」
と言う。あるある。疲れてる時なんか、特に。
もちろん、画面上のぼた餅をおれたちが食べられるわけはないが、疲労困憊した乗組員の体にあんこの甘味がしみわたる感じは想像することができた(^q^)
だが、これが飛龍乗組員の「最後の幸せ」になってしまった。
第三次攻撃をかけたくても使用可能機がほとんどなくなってしまった飛龍目指して、エンタープライズから爆撃機が飛び立ったのだ。
え? エンタープライズは大破させたんじゃないのかって?
実は、第二次攻撃隊がやっつけたのは、既におれたちがヘロヘロにしていたヨークタウンだったのだ。攻撃がかぶってしまったのだ。
つまり、敵空母エンタープライズとホーネットは2隻とも健在なのである。(つづく)

群青のミッドウェー6

2015-08-15 21:45:28 | 群青のミッドウェー
  『紺碧のダナウェイ~祈命の剣~』


 (このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません)

それは雲間をきらきらと光りながら降下してきた
アメリカの爆撃機だ。
それまでは低空をやってくる雷撃機ばかりだったので、零戦は高度を下げていた。対空砲もほぼ水平を向いており、頭上は全くの死角だった。
「敵機!」という見張りの声に、誰もが一瞬、「え? どこ?」と思ったんじゃないだろうか。
零戦が高空に舞い上がろうとし、対空砲も角度を上げようとしたが、間に合わなかった。
1発、2発…と爆弾が赤城に命中する。
普通なら、これくらいで空母はびくともしないらしい(どんだけ頑丈にできてるんだ)。
だが、この時は状況が違っていた。爆弾を魚雷につけかえた攻撃機や、給油を終えたFW零戦が今にも発艦しようというところで、足元にははずしたばかりの爆弾がごろごろしていた。
もしかして、煙草一本吸ってもまずいんじゃないかというような 火気厳禁状態のところへ爆弾が落ちたのだから大変だ
次々と誘爆が起きて、赤城はあっという間に炎に包まれた。
近くにいた加賀と蒼竜も同じ憂き目にあった。空母をひとまとめにしておいた布陣が裏目にでたのだ。
これが「運命の5分間」といわれる出来事だ。どこがどう「運命の5分間」なのかというと、爆撃機がやってくるのがあと5分遅かったら、日本の攻撃機は全機発艦を終えて、敵空母をやっつけていただろうというのである。

そうかなあ…

「て、何時間もかけて魚雷と爆弾とっかえひかえして、向こうの空母から攻撃機が来てるのに、友永隊の収容を先にしたんだろう? 今さら5分遅かったらもないと思うぜ。ここまで引っ張っただけでもたいしたもんだと思うけど」
敦は言った。おれも同感だ。
あれよという間に主力空母3隻を失って、南雲はすっかり燃えつきている。
画像も、白い紙に目鼻のようだ(^^;; それを両側から抱えるようにして、部下が赤城から待避させる。


空母飛龍だけは離れたところにいたので無事だった。艦長はあの炎の闘将山口だ
「敵は今攻撃力を出し切ったところで、二次攻撃の余力はないはずだ。敵との間合いを詰め、間を置かず一次、二次攻撃をかければ勝機はある」
と、飛龍を最大戦速で進ませた。
「我飛龍を率い、敵機動部隊を撃滅せんとす。我に続かれたし」
と、先頭を切って突っ走る飛龍を、艦隊が追いかける形になった。何だか、織田信長の若い頃みたいだ
「こいつ、メンタル強いな~」と、敦は感心を通り越して呆れたような声音だ。
おれたちは、たとえるなら、この間のワールドカップでドイツと対戦したブラジルチームの心境だ。いきなりハットトリックを決められて、ピッチにしゃがみこみたい気分である
山口だってショックだろうが、そんなそぶりはみじんも見せず、ここから勝つ気で突進している。
敵空母は2隻いるはずだが、山口の考えは無茶苦茶ではない。この時点では、航空機の性能もパイロットの伎倆も日本の方が上だった。ミッドウェー島攻撃でも、数に勝る敵に待ち伏せされながら、敵戦闘機を多数撃破し、爆撃を敢行したのだ。
1対2ではたしかに厳しいが、勝てる可能性は十分ある。
メインキャラクターの南雲が燃えつきてしまったので、飛龍の反撃はイベントになる。
敦はもちろん参加するをクリックした。機種は悩んだ末に雷撃機を選択した。零戦の方がカッコイイのだが、零戦の機銃では敵空母を沈められない。それより、必殺の魚雷を敵空母にぶちこんでやりたいのだろう。
「『サポートプレイヤーを参加させますか?』っていってるけど、おまえ、やる?」
どうも、護衛の零戦役をやれるようだ。当然、おれも参加だ。
二人で敵空母を沈め、赤城、加賀、蒼竜の敵を討つのだ。
おれたちは、小林隊長に率いられて飛龍を発艦した。

勇んで飛び立ったおれたちだが、敵機動部隊の上空に達した途端、血の気が引いた
「やべ、これ、負けイベントじゃねえ
敦が叫ぶ。
イベントは、必ずしもプレイヤーにポイントを与えるものばかりではない。
それまでに貯めたポイントを全て吐き出させ、あまつさえ、そこでゲームオーバーになってしまうものさえある。
それが負けイベントだ。
おれたちが、飛龍反撃イベントは負けイベントではないかと思った理由は…


敵空母は2隻ではなく、3隻いたのだ  (つづく)

群青のミッドウェー その5

2015-05-03 20:24:48 | 群青のミッドウェー


 (このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません)

ミッドウェー島攻撃から帰ってきた友永隊はへろへろだった。
「ミッドウェー島の守備隊などひとにぎり」なんて軍令部のいいかげんな情報を信じて出撃したら、敵戦闘機の待ち伏せや、すさまじい対空砲火に迎えられたのだからたまらない。
それでも、敵機を40機以上撃墜し、修理可能な物ばかりとはいえ地上施設の爆撃を敢行したのだから、母艦にたどりついた時はよれよれだった。
早くも燃料切れで海に落ちる機もある。護衛の駆逐艦がパイロットを拾い上げているが、飛行機はどうなるんだろう。沈むにまかせるのかな。それはちょっともったいないな
南雲がおれと同じことを考えたのかどうか知らないが、源田に向かって、こう問いかけた。
「友永隊を先に収容した方がいいのではないか?」
「そうですねえ…」と源田は煮え切らない。何だよ、おまえ、決断力レベル高いんじゃなかったのか? さっきから、ずっと頷きトリオじゃねえか
「きっと、南雲さんと相性がいいからじゃない? 敦くんが試合で、仲のいい中村くんより、嫌いな元木くんによくパス出すのと同じ気がする」
碧が思いがけないことを言った。
中村と元木は今、ポジション争いをしているところだ。実際、敦は、監督が中村を使った時の倍くらい元木にパスを出している。
おれも一度、「おまえ、中村の時ももっとパス出してやれよ。このままだと、元木がレギュラーに定着しちまうぞ」と言ったことがある。
「おれもそう思うんだけどさー。元木って、思いがけないスペースを見つけるのが上手いんだよな。あー、やべぇ、誰にもパス出せねえと思った時に、あんなところが空いてたんだつうとこへパッと飛び込んでこられたら、あいつにパスするしかねえじゃん」
碧が言うには、馬が合わないということは人間のタイプが違うからだ。だからこそ、自分とは違う視点や発想を持つことができる。元木が「思いがけない」スペースを見つけられるのはそのせいではないか。逆に、敦と気の合う中村は発想が似通っているので、相手チームが敦の癖を読んできたりすると、機能しにくくなる。
「源田さんと南雲さんも相性レベルが高いんでしょう? 似たもの同士だから、同じところで躓いちゃうんじゃないかな」
碧が『源田さん』とか『南雲さん』とか言うと、おれは妙な気分になった。呼び捨てにするより、さんづけの方が「お友達」という感じがするのはなぜだろう
「そうか。あの相性レベルにはそんな深い意味があったのか。ちくしょー。相性レベルの低い山口あたりと組んだ方がよかったのかも
敦は、今さらながらに後悔している。
その山口からは、「現装備(爆装)のまま直ちに発進の要ありと認む」と矢の催促がきていた。敦が山口をサポートキャラに選ばなかったので、山口は史実通り、空母飛龍に乗り組んでいる。
画面が二分割されて、燃えさかる炎をバックに背負った山口と 困り果てたような表情の南雲 がやりとりをしている。
「陸用爆弾でもいいではないか。敵空母の甲板に穴を開ければ使い物にならなくなる。沈めるのはそれからでもよろしい」
「しかし、ハワイへ逃げ込まれでもしたら…それに、攻撃隊の発艦を先にすると、戦闘機の護衛をつけてやれなくなる。友永隊を先に収容して、その間に爆装を雷装に転換すれば、友永隊の戦闘機を護衛につけてやれるし、魚雷で敵空母を確実に沈めることができる…」
敦はこれを聞いて目を剥いた。
「て、また二時間かけて魚雷につけかえるの? なし、なし。もう敵空母近くにいるんだろ? そのまま出撃だよ」
おお、ついに歴史が変わるのか おれは胸をときめかせて画面に見入った。
南雲の台詞が二つに分かれる。
「1 攻撃隊は爆装のまま、直ちに発艦せよ 2 友永隊を収容し、爆装を雷装に再転換せよ」
敦は、「絶対こっちだよ」と2をクリックした。おい、それ、違うんじゃねーか?
「あー、間違えた
案の定、敦は叫んだ。これまでの分岐では1が史実通り、2が史実と違う選択肢だったので、つい2を選んでしまったらしい。
ああ、これで史実通りになっちまったよ… 
なまじっか予備知識を仕入れたばかりに、おれにはこの先の展開がはっきりわかっている。だが、そんなおれの目にも、「もしかしたら何とかなるかも」と見えるほど、日本の防御は鉄壁だった。
アメリカが次々繰り出してくる攻撃機を、DF零戦が片っ端から墜としてゆく。この頃までは、零戦自体が世界一といっていい性能を誇っていただけでなく、それを操るパイロットの腕も神業的だったようだ。源田が空母をひとまとめにして零戦に守らせればいいと考えたのも一理あると思える活躍ぶりだ。
そのうち、とうとう敵空母の艦載機が襲いかかってきた。ミッドウェー島からの陸上機とはまるでエンジン音が違う。
戦争をちょっとだけ知っているおれのじいちゃん(終戦時に小学生だったらしい)が、B29よりも艦載機が来た時の方が恐かったとよく言っていた。
―低空をさぁーっと飛んできて、動くものは全部機銃掃射していきよる。あの甲高いエンジン音が聞こえてきたらゾクーッとしたよ
何も民間人相手にそこまでしなくてもよさそうな気がするが、いったん戦争状態になってしまうと、ひとまとめに「敵国人」になってしまうんだろうな。
迫り来る雷撃隊を、これもDF零戦がたたき落とす。安堵する間もなく、第二波、第三波が繰り出されてくる。
魚雷は一発でも当たると艦が沈むので、DF零戦も、対空砲も必死だ。
DF零戦の頼もしさに、空母の乗組員は歓声を上げている。だが、サッカーでいえば何本もシュートを打たれている状態なのは変わりない。
いくら鉄壁のディフェンスでも、生身の人間がやっているのだから、一瞬の隙を突いて抜かれることはある。
そして、とうとう、その瞬間がやってきた。(つづく)



群青のミッドウェー その4

2015-03-19 20:58:21 | 群青のミッドウェー
 『紺碧のダナウェイ~熾天使セラフ、降臨』

「どんな話なん?
「さあ…?



 (このおはなしはフィクションです。実在の個人・団体には一切関係ありません)

ミッドウェー島攻撃隊の友永隊長から「第二次攻撃の要あり」と打電されて、南雲は困惑した。
ミッドウェー島の守備隊など友永隊がひともみにすると思い込んでいたので、空母の甲板には雷装した攻撃機が敵空母との対決に備え、出撃準備を整えている。雷装というのは、魚雷を装備しているということだ。魚雷ではミッドウェー島は叩けない。二次攻撃をかけるなら、爆弾に積み替えなければならないが、その間に敵空母と遭遇したら…?
「て、まだ敵の空母見つけてねえの? 信じらんねー」
ミッドウェー島攻撃イベントで大奮戦した敦は態度がでかい
ポイントゲージを見ると、1万点を超えている。自分がこんなに頑張っている間に何をしていたのだと言いたい気分なのだろう。
サポートキャラの源田もどうしていいかわからないようだ。二人が首を捻っているところへ、対空監視員から「敵襲!」の声がとんだ。
雷撃機が南雲の乗る空母赤城を目指して飛んでくる。DF零戦(これは敦とおれが考えた名前だ。直掩機と言われる、空母を護衛するためのゼロ戦がDF零戦、攻撃隊に加わった零戦はFW零戦だ)があっという間に撃墜する。
「すっげー」
おれは思わず感嘆の声を洩らした。源田が、空母をひとまとめにすればDF零戦で鉄壁の防御が敷けると進言したのがわかるような見事さだ。ちなみに、南雲機動部隊の空母は旗艦赤城の他、加賀、蒼竜、飛龍。この4隻が、この時点での日本の主力空母だ。
参謀長が南雲に、「今のはミッドウェー島からの来襲機です。やはり、ミッドウェー島に二次攻撃をかけるべきです」と具申した。
「敵空母はまだ見つからないのか?」「まだです」
ここが大きな分岐点の一つだ。南雲の台詞が画面に表示される。
「1 雷装から爆装に転換して、ミッドウェー島を攻撃せよ  2 雷装のまま敵空母に備えよ」
敦はポイントを使ってヒントを貰うことにした。画面の隅に点滅している「H」印をクリックすると、いくつかの選択肢があらわれる。その中で自分が一番知りたい質問を選ぶと、500ポイントで答えが出るのだ。
敦が選択したのは、「爆装への転換にかかる時間は?」で、答えは「約2時間」だった。
「2時間~」 敦はあきれ声を出した。
「いくら何でもその間に敵の空母が来るよなあ?」
いや、そんなこと、おれに訊かれても
ミッドウェー島から、こんどは爆撃機が来襲した。これも、DF零戦が1機残らずたたき落としてしまった。
「すごいね、零戦」
碧も感心している。オリンピックで日本の選手がメダルを取った時と同じで、こんなの見ていると俄ナショナリストになってしまいそうだ。
画面の中では、参謀が南雲にまくしたてている。
「いるかいないかわからない空母より、現実の脅威を排除すべきです」
それを見て、今度は敦が言い立てる。
「いるかいないかって、こんだけ大騒ぎになってるんだから、知らん顔ってことはねえだろ。すっとんでくるよ
問題は、敵空母が今どこにいて、そこからすっとんでくるのにどれくらい時間がかかるかだ。場所によっては、この頃の船なら2時間ぐらいかかるかもしれない。もちろん、そういう情報は教えて貰えない。わかったら、簡単に決断が下せるもんな
「大体、ミッドウェー島って、どのへんにあるの?」
敦は「周辺海図」をクリックした。アメリカ本土からどのくらい離れているかわかれば、ヒントになると思ったのだろう。あたりは海ばかりで、アメリカがどこにあるのかさっぱりわからない。ようやく碧がハワイを見つけ、
「ハワイに近いみたいだけど…」
と言ったところで、またタイムアウトになってしまった。史実通り、魚雷を爆弾につけかえる作業が始まってしまった。敦が二度もタイムアウトを食らうなんて、おれが知る限りでは始めてだ。
「ねえ、この作戦、何だか根本的に無理があるような気がするんだけど」
碧が言う。歴史に名を残す山本五十六の立てた作戦に物申すか、碧
だが、実を言うと、おれもさっきからそんな気がしていたのだ ミッドウエー島を攻撃するという、蜂の巣をつつくようなことをしておいて、怒って襲いかかってくる蜂を払いのけながら、本命の敵空母部隊を探して決戦しようなんて、いくら何でも大変すぎやしないだろうか
うちのチームの司令塔で、ピッチでは的確な判断を素早く出す敦が二度もタイムアウトになってしまったのも、碧が言うように、作戦自体に無理があるからかもしれない。
「てか、さっきからうちの部隊ばっかり戦ってるみたいなんだけど、他の艦は何やってるの
敦はすっかり南雲モードで、「うちの部隊」なんて言っている。
そう言われてみれば、冒頭の映像ではすごい大艦隊で出撃していったはずなのに、さっきから奮闘しているのは南雲機動部隊と、せいぜい護衛の駆逐艦などだ。
「『大和』とかちょっと出てきて、ミッドウェー島に大砲何発かぶちこんでくれたら、大分違うような気がするんだけど」
これは、おれが下調べをしたどのサイトにも批判的に書かれていたのだが、戦艦大和を中心とする主力部隊ははるか後方にいて、機動部隊がどういう状況に陥っているかも知らなかったようなのだ。
サッカーでいうなら、南雲がチームキャプテンで、山本は監督だろう。南雲がテンパっていたら、山本が指示を出してやるべきだ。なのに、どうも後方でのんびりと「勝利の報告」を待っていたようなふしがあるのだ。
山本五十六という人は、日本とアメリカの国力の違いをよく知っていて、度々懸念を洩らしていたという。そのため、「長官はアメリカを過大評価しすぎている」と陰口をたたかれるぐらいだったそうだが、そんな人でも、真珠湾からこっち連戦連勝だったせいで気が緩んでいたのだろうか。
DF零戦の活躍で、敵機はことごとく撃墜されている。何十本シュートを打たれても必ずクリアするディフェンスのようだ。
「でも、この状況、まずくね?」
おれは敦に訊いた。
「まずいよ。ずーっと自分とこのゴール前でやってるようなもんじゃん
そこへ、索敵機から「敵らしきもの見ゆ」という報告が方位と共に入った。
「敵らしきものって何?」
敦も、画面の南雲もイラッときている
当時は今みたいにコンピューターとか使っていないからか、笑ってしまうぐらい報告が曖昧だ。
しばらくして、「空母らしきもの一隻伴う」と打電してきた。
だから、「らしきもの」って何なんだよ。空母なのか、違うのか。
南雲は、そこは歴戦の将らしく、「空母はいる」とピンときたようだ
皮肉なもので、敵空母の存在が確かになった頃には攻撃機の魚雷はほとんど爆弾に積み替えられていた。
何でも、軍艦は爆弾なら何発かくらっても大丈夫だが、魚雷なら一発で沈んでしまうという。ミッドウェー島ではなく空母を攻撃するのなら、必殺の魚雷に戻すべきなのか? 
ミッドウェー海戦最大の「たられば」に南雲が直面したちょうどその時、ミッドウェー島から友永隊が戻って来た。
(つづく)

群青のミッドウェー その3

2015-03-10 20:42:37 | 群青のミッドウェー
『紺碧のダナウェイ~Her Majesty's Angels~』


 (このおはなしはフィクションです。実在の個人・団体には一切関係ありません)

この索敵だか偵察だかには、「日本軍に不利な点が多々あった」と、おれの見たサイトには書いてあった。
霧が出ていたり、カタパルトの不具合で偵察機が予定通りに発艦できなかったり、色々アクシデントがあったようだ。
だが、生意気を承知で言わせて貰うなら、それって、運不運の問題なんだろうか。
おれも敦もサッカー部に入っていて、自慢じゃないがレギュラーだ(練習しないでゲームなんかやっていていいのかって? うちの学校はグラウンドが狭いので、運動部が交替で使用している。今日は野球部の練習日なのだ)。
うちの監督は、『語録』を作りたくなるほど格言めいたことを言うのが好きな人だが、その1は何と言っても、「不運だと思うことの大半は自分に原因がある」だろう。
この間の練習試合でもそうだった。相手はけっこう強豪チームだったが、おれたちは終盤まで0-0で粘っていた。そのまま引き分けても、「勝ちに等しい引き分け」と言える試合だった。相手選手の表情にも、無名校相手に得点できない焦りが滲んでいるように見えた。
そのせいか、おれがドリブルでボールを前線に運んでいくと、ものすごいタックルをくらった。おれは見事にすっ転がりながら、心の中で、「やったー、FKだー!( ^-^)ノ」と叫んでいた。だが、審判は笛を吹かない。嘘だろう? おれは呆然と審判の姿を目で追った
敦の「戻れー!」の叫びに、慌てて走り出した時はもう遅かった。おれたちはカウンターをくらって、決勝点を入れられてしまった(ごていねいに、アディショナルタイムにももう1点入れられた)。
試合後、「あのジャッジがなかったら、勝てたかもしれないのに」とぼやいていると、監督にどやされた。
監督が言うには、相手の選手はフィジカルが強いので、もっと強い当たりをくらってもびくともしなかった。だから、おれがあの程度の当たりで倒れてもファウルをとられなかったのだ。
「仮にミスジャッジだったとしても、プレイが続いているのにぼーっと突っ立っているとは何事だ!」と、おれを含めて数人の戻り遅れた奴らがゲンコツをくらった その時は、「きっつー」と思ったが、落ち着いて考えると、監督の言う通りかもしれない。
おれは次の練習からは、できるだけ筋トレを手抜きせずフィジカルを鍛え、ゲームが続いている間は何があっても集中を切らさないことを心がけるようにした。
サッカーの試合ですらこうなのだから、いわんや戦争においてをやである(←最近、漢文で習った表現。古文だったかな?)
何でも、空母同士の対決では、とにかく先制パンチをかました方が勝つという。ミッドウェー作戦の最大の目標は敵空母の殲滅なのだから、この場合、何をおいても相手より先に敵の空母部隊を発見することを優先するべきだったんじゃないだろうか。二段でも三段でも、バンバン偵察機を出していれば、アクシデントは「不運」につながらなかったように思う。
それなのに、攻撃機が少なくなるから一段索敵にするなんていってるのが、日本の貧乏くさいところだ

結局、敵空母は見つからないまま、友永隊長率いるミッドウェー島攻撃部隊が出撃した。
この攻撃は、ゲームのメインの流れとは独立した「イベント」になっている。イベントなんていうと不謹慎に聞こえるかもしれないが、ゲーム用語だから仕方がない。
「イベントに参加しますか?」という質問に、敦はもちろん参加をクリックして、零戦パイロットをキャラ選択した。
味方の航空部隊が攻撃に行く時の戦闘機の役目は、重い爆弾を積んで身動きが鈍くなる爆撃機の護衛である。飛行機の速度が違うので目的地に着くまでは寄り添って飛ぶわけではないらしく、敦は、「上昇、下降、これで旋回だな」と、操作を確認していた。
しかし、ミッドウェー上空に到達した瞬間、「え? 何? うそ、マジ?」と素っ頓狂な声をあげる。敵戦闘機が待ち伏せしていたのだ。
実は、これが日本軍の大誤算の一つだった。日本側は真珠湾の時と同じく全くの奇襲をかけているつもりだったのだが、海軍の暗号はアメリカにバレバレで、向こうはミッドウェー島の守備を強化して待ち構えていたのである。
敦は爆撃機の側に行こうとするが、敵戦闘機にはばまれてなかなか近づけない。それでも、何機か撃墜して(1機撃墜すると100ポイントゲットできる)、味方の護衛にとんでいった。敵にやられそうな味方機は画像が点滅している。その側へ行って、相手の戦闘機を追い払うと、点滅が消えて50ポイントが入る。敵機を撃墜すれば100ポイントだ。
敦は調子よくポイントを取っているように見えたが、
「何か、これ、すっげー疲れる
ダナウェイにもアクロバティックな戦闘シーンは何度も出てきたが、「こんなの作画するの大変だろうなー」と感心する程度で、見ていて疲れるということはなかった。だが、ミッドウェーの画像には、自分がそこに引きずり出されたような、妙なリアリティがあった。
攻撃隊が突っ込んでいくシーンもそうだ。高高度から見ると、ミッドウェー島は海にぽちっと突き出した突起のようだ。そこに爆弾を落とすのだから、いかに急降下しなければならないかがわかる。しかも、下からは対空砲火、周囲からは敵戦闘機の攻撃を受けながらだ。
正直、
(自分がこんなことしなきゃならなくなったら、いやだな
と、思った。
高度が下がるにつれ、ミッドウェー島の周囲には珊瑚礁なんかあって、綺麗な海なのがわかる。戦争なんかしてないで、ここで泳いだら気持ちいいだろうなあ
「疲れる理由がわかった。敵多すぎ~
敦が悲鳴をあげる。ポイントはかなりの数字になっていたが、敵戦闘機は次から次へと敦の零戦に群がってくる。
こんなに大変な思いをしたにも関わらず、この攻撃は空振りだったようだ。敵機のほとんどはどこかへ逃げ出してしまっていたし、爆撃した地上施設もすぐに修理が可能なものばかりだった。
友永隊長は、「二次攻撃の必要を認む」と打電した。
これが、南雲を悩ませ、最大の「たられば」につながっていくのだ。(つづく)

群青のミッドウェー その2

2015-02-23 21:24:00 | 群青のミッドウェー
 『紺碧のダナウェイ~大空の不死鳥たち~』

「本当はこっちがほしかった~

 (このお話はフィクションです。実在の個人・団体とは一切関係ありません)

「調べる」といっても、分厚い歴史の本を読むわけではない。「ミッドウェー海戦」でググッて、ヒットしたサイトの中からわかりやすそうなのを斜め読みしただけだ。
ところで、おれは細かいことが気になる性分だ
まず「連合艦隊」という言葉。一体どこと連合してたんだ? 日本だけだろ?
幸い、この言葉にリンクが貼ってあったので、クリックした。それによると、明治初期の日本の海軍は、有力艦・新鋭艦で編成された主力部隊を「常備艦隊」、老巧艦などで編成された沿岸防備のための二線級部隊を「警備艦隊」と称していた。日清戦争の際に、警備艦隊を西海艦隊と改名し、この二つが合体されて連合艦隊になったそうだ。
南雲が指揮する「機動部隊」というのもよくわからなかったが、これは空母部隊と考えていいようだ。
ミッドウェー海戦の本筋は、ごちゃごちゃしていてややこしかった。ゲームになるだけあって、「たられば」の宝庫なのだ。
ロールプレイングゲームは、基本的に分岐とループでできている。ループは絵を動かすための処理で、ストーリーを決めるのが分岐だ。プレイヤーが分岐でどういう選択をしたかによってストーリーの流れが変わってくる。
「きみの決断で歴史が変わるかもしれない」とあったのは、多分そういうことだ。分岐で史実と違う選択をすれば、ストーリーが別の方向に流れるので、勝敗がひっくり返ることもありうるのだ。
おれは分岐になりそうなところで史実がどう流れたのかをメモった。思いの外時間がかかってしまったので、ゲームは翌日にやることにした。

次の日、学校で友人の敦と彼女の碧(あおい)に、『紺碧のダナウェイ』がなぜか『群青のミッドウェー』になってしまった話をすると、敦は腹を抱えて笑い転げた。
「面白そー。それ、おれにやらせろよ。その間、おれのダナウェイやってていいからさ」
ダナウェイをやらせてくれるって おれはもちろん、この提案に飛びついた。
まず敦の家へ、ダナウェイのソフトとゲーム機を取りに行き、それからおれの家で、敦はミッドウェーを、碧とおれはダナウェイをやることにした。敦はおれが予習したミッドウェー海戦の説明なんか聞こうとしなかった。敦は何でも体で覚える主義で、パソコンでもスマホでも、取説なんか読まずにどんどん動かしていく。
おれは、憧れのダナウェイがやれて手が震えそうだった。碧もダナウェイのアニメは見ていたという。
「最近のリアルなアニメの中には、メインキャラを死なせて感動をとろうとしてるみたいなのあるじゃない。ダナウェイにはそんなところがなかったから、最後まで見てたけど」
たしかに、最近のはメインキャラでもバンバン死んでいく作品が多い。メインキャラといえども弾はよけてくれないという意味で「リアル」なのかもしれないが、中には、碧の言うように、「衝撃の展開にファンは号泣!!」という風にもっていきたいのかな、と感じるものもある。そういう作品はおれも好きじゃない。
キャラを選択して、さあ始めるぞ、と思ったところへ、敦が、
「なあ、なあ、空母をひとまとめにするか、分散させるかってきかれてるんだけど」
敦は南雲をキャラ選択していた。サポートキャラには源田を選んだようで、「空母を一箇所にまとめれば、直掩機(空母を護衛する戦闘機)で鉄壁の防御ができます」とアドバイスしている。
敦は、「サポートキャラの言う通りにした方がいいのかな?」と、源田の進言に従った。これは史実通りの選択で、実を言うと、後の結果に結構影響してくる。
ダナウェイの画面に戻る。ミッドウェーに比べて色が明るく鮮やかだ。おれはダナウェイの色彩が好きだ。見ていると、アニメの美術の仕事なんかやってみたいな、なんて思えてくる。
みとれていると、また、敦に肩を突かれた。
「なあ、イチダンサクテキ、ニダンサクテキって何?」
「知らねえよ。どんな字書くの?」
敦はゲーム画面をつきだした。部下が南雲に、「一段索敵でよろしいですか? 二段索敵にしますか?」と訊いている。
こんな風にふきだしに台詞が表示されるのは分岐のしるしだ。
「字面からして、偵察みたいなことじゃない?」 碧が言った。「一回だけじゃなくて、二回やるかって、きいてるんじゃないかしら」
南雲は、「そうだなあ。二段にすると攻撃機が少なくなるかなあ」と悩んでいる。やはり決断力レベルが低い。
次の台詞が分岐だ。「1 やはり二段の方がいいだろう。 2 そうだな。一段でいい」 プレイヤーがどちらかを選択する。
「でも、海ってすげえ広いから、そんなに簡単に敵がどこにいるかなんてわかんねえんだろ?」
敦がこんなことを知っているのは、ダナウェイに似たような場面があったからだ。年若いパイロットが引き返すポイントを過ぎても敵を探すのをやめなかった(単純計算で、航続距離の半分で折り返さないと、燃料切れで母艦に戻れなくなる)。燃料計が赤ランプになった時に敵を発見し、その位置と編成を正確に味方に知らせ、直後に撃墜されてしまう。
ダナウェイが他のアニメと違うところは、このエピソードを美談にしなかったことだ。すぐに司令部がどうすれば同じことを繰り返さないか、議論を始める。未来世界が舞台なので、テクノロジー部が、「偵察機が航続距離の半分を過ぎれば自動的に反転するリミッターをつけましょう」なんて言い出し、突貫工事で開発しているシーンがその回のエンディングにちらりと出ていた。
視聴者の反応は賛否両論だったようだが、碧はあれでよかったと思うと言う。
「だって、自己犠牲を手放しで賛美したら、みんなそうしなくちゃならなくなるじゃない」
そんなことを言っているうちに、敦の画面に「TIME OUT」の表示が出て、部下が「では、一段でいきます」と走り去った。
どうやら、一定時間内に決断を下さないと、史実通りの展開になるらしい。  (つづく)

群青のミッドウェー  その1

2015-02-19 20:21:50 | 群青のミッドウェー


 最近、イラストが勝手にできて、後からおはなしをくっつけるパターンが続いています。これもそうで、「なぜわたしはこんなモノを描いているんだろう?」と自己ツッコミを入れながら描いてました。
せっかく描いたので(←貧乏性) おはなしもつくりました。お暇な~ら読んでね
もちろん、フィクションです。実在の個人や団体には一切関係ありません。


 親に何かをねだったら、ほしかったものとは微妙に違うのを買ってこられて、悔しいような情けないような気分になった経験があるだろうか。
今のおれはまさにその状況だった。
父さんの会社で数年ぶりに冬のボーナスが出たので、おれも何か買って貰えることになった。おれは迷わず、ゲームソフト『紺碧のダナウェイ』を頼んだ。
ダナウェイはTVアニメ化もされていて、おれはそっちでハマッた。未来の戦闘もので、巨大ロボットは出てこないが、主人公が乗り組む空母ミネルバと、彼の乗る戦闘機フェニックスがとにかくカッコイイのだ。
もうゲームをやった友人は、「すっげぇクォリティ高いぜ。空戦シーンなんか、画面からGを感じるぐらいなんだ」と言っていた。おれももうすぐその感覚を味わえるのだとわくわくした。
手渡された包みを開けると、何となく雰囲気が違う。違和感を感じつつもビニールをむしりとり、おもむろにタイトルを確かめると…『群青のミッドウェー』
は? ミッドウェー?
ひらりと舞い落ちたペラ紙に、こんな文字が躍っていた。

太平洋戦争の分岐点となったミッドウェー海戦。
このゲームは単に歴史を再現したものではない。
きみの決断で歴史が変わるかもしれないのだ。
さぁ、世紀の海戦に参戦しよう


たしかに、空母も戦闘機も出てくるけど…
いっそかけ離れたものだったなら、こちらもカラッと怒れるのだが、この「似て非なる」ところが、何ともいえないもの悲しさをそそる。
違うんだよ~、これじゃないんだよ~
父さんが、「おまえがいうより安かったぞ」とニコニコしていた時点で気づくべきだったのだ。
だが、パッケージを開けてしまった以上はおれの負けだった。父さんは、そんなの返品できないという。
おれは涙目になりながらソフトをセットした ゲーマーの性で、そこにソフトがあればやはりプレイしてしまう。
オープニング画像はなかなかいい感じだ。丁寧に作られていることが伝わってくる。太平洋を進む大艦隊が映し出され、重々しいナレーションが、真珠湾攻撃からミッドウェー海戦までの経緯を語ってゆく。
何でも、真珠湾で敵の空母をうちもらしたので、山本五十六はミッドウェー島を攻撃して敵空母部隊をおびきだし、今度こそ殲滅する作戦を立てたのだそうだ。フーン、そういう流れだったのか。
このあたりは、授業ではいつも3学期の終盤で、先生はとばしにとばしたあげく、「残りは各自、春休みに教科書を読んでおくこと」で終わるところだ。おれが思うに、ネアンデルタール人がどうとかとか、縄文時代や弥生時代に時間をかけすぎてるんじゃないだろうか。
これもロールプレイイングゲームらしく、キャラクター選択画面が出てきた。司令官クラスは、日本側が山本五十六と南雲忠一、アメリカ側がニミッツとスプルーアンスだった。
山本五十六はかろうじて名前ぐらい知っているが、南雲忠一って誰? ニミッツって、原子力空母かなんかの名前じゃないの? スプルーアンスにいたっては、お手上げだ \(^_^)/
それぞれのキャラの横には、智力、決断力、求心力、勇猛度などのレベルが棒グラフで示されている。
南雲は指揮官のくせに決断力のレベルが低い。優柔不断な人だったのだろうか?
などと考えていたら、ついクリックしてしまった。あちゃー。おれ、南雲になっちまったよ。
続いて、「サポートキャラクターを選択して下さい」という画面になった。
源田実、山口多聞、渕田美津雄…うわー、全然知らねー 誰が頼りになるんだよ
サポートキャラだから、南雲の弱点を補ってくれる奴がいいんだろうな。そうなると、山口か。決断力や勇猛度のレベルが高い。だが、南雲との相性レベルはいまいちだ。
一番相性がいいのは源田だった。能力値も南雲を補完してくれそうだ。源田と組むのがいいのかな?

ちょっと待てよ。

日本はこの海戦で大敗したんだよな。てことは、単純に考えると、歴史の逆をいけば勝てるはずだ。
おれはとりあえず、ゲームをいったん中止して、ミッドウェー海戦について調べることにした。

(続きは随時掲載する予定です。そもそも続くのか…?