水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

逆転ユーモア短編集-61- 何もない

2017年12月27日 00時00分00秒 | #小説

 アレコレとあるよりは何もない方が上手(うま)くいく・・ということは確かによくある。多勢に無勢は流石(さすが)にいただけないが、少数精鋭で烏合(うごう)の軍勢を撃破した・・などという合戦(かっせん)も過去の歴史の中で起きた事実である。それは今を生きる私達の世界でも言えるようだ。
 とある会社の専務室である。二人の男が応接椅子に座り、語り合っている。
「川端さん、すまないがアノ一件、なんとかならないでしょうかな?」
「専務! また私ですかっ?」
「いやね、情けない話だが、貴方(あなた)しか適当な人材が他に見当たらないんですよ」
「浮舟さんなんかどうですか?」
「ああ、浮舟さんね…。浮舟部長はいつもポカァ~~ンと池に浮いているだけの人ですから、頼りには…」
「専務! それはいくらなんでも、少し言い過ぎじゃないでしょうか」
「いや、飽(あ)くまで冗談ですよ、冗談。ははは…」
 上司のはずの専務の中洲(なかす)が川端に押されていた。
「まあ、どうしても! と言われるのなら、お引き受けしますが…」
「このとおり、恩にきますから…」
 中州は川端に両手を合わせて懇願した。中州の説明によれば、浮舟以外の他の部長達は、アレコレと手を回し過ぎて話が拗(こじ)れるのだという。そこへいくと、損得勘定も何もない川端の折衝(せっしょう)は返って相手を信用させ、適任と見なされたのである。
「私でよければ…」
「はい! お任せします。なにぶんよろしくっ!!」
 次期社長の呼び名が高かった中州としては、いろいろあった。何もない川端は、その折衝を纏(まと)め上げ、どういう訳か副社長に抜擢された。逆転された中州は啼(な)かず飛ばずで、そのまま専務に甘んじた。

                               


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