備忘録として

タイトルのまま

太平記

2007-10-08 14:53:23 | 中世
鎌倉末の南北朝動乱期のことは歴史の教科書程度の知識しかなかったが、永井路子の”太平記”を読んで、後醍醐天皇、護良親王、足利尊氏・直義兄弟、新田義貞、楠正成らの生き方や人物像が概観できた。
楠正成は皇国史観で忠臣の鑑とされているが、その虚飾部分を割り引いたなら、前述した他の登場人物の個性のほうが断然強烈で魅力的だ。太平記の中の楠正成は戦国期の真田幸村と被る程度なのだが、皇国史観では悪役の尊氏は、後醍醐天皇との確執、弟直義の離反、高兄弟の増長、壊滅的な敗戦と逃亡など幾多の困難を克服したのち再起し最終的には征夷大将軍となるなどその生涯は波乱に富んでいて、その間の尊氏の心理状態や対処法を見るだけでも面白い。確かにその時代の人間たちの絶え間ない裏切り、謀略と打算の中にあって楠一族の天皇家への忠誠は一貫しており、南宋末の文天祥同様に称賛されていいのかもしれない。
歴史人物に善悪を持ち込んだのは、江戸時代の大義名分論と尊王思想による水戸学で、幕末の尊皇攘夷論から明治以降の皇国史観へと続き、正成が死を覚悟したときに言った”七生まで同じ人間に生まれて朝敵を滅ぼさん”(七生報国の誓)は喧伝されて、靖国神社の成立にも影響している。
太平記では、多くの登場人物が絶え間なく合流と離反を繰り返し、そこに亡霊も加わって、最後は読み疲れてしまった。

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