伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

委員長の透かしっ屁

2008年09月23日 | エッセー
 臼井日出男。衆議院議員、自民党高村派、千葉1区選出、当選8回、69歳。中央大学経済学部卒、防衛庁長官、法務大臣を経験。先日の自民党総裁選挙で選挙管理委員長を務めた。
 プロフィールをみるかぎり、さほど特異な人物ではなさそうだ。今期で引退かとも囁かれているが、まさか最後っ屁でもあるまい。おそらく御本人は何気なしに放ったのであろうが、これがかなり強力な透かしっ屁だったのである。ただほとんど気付かれてはいないようだ。わたしはたまたまラジオで聴いていた。それだけに直撃を喰らったのかもしれない。
 きのう(9月22日)の記憶をたどりつつ再現してみる。

  ……
臼井 「選挙事務は党職員をもって当たらせます」
  ……
臼井 「まず、投票箱が『クウ』であることを確認してください」
  ……
アナウンサー 「職員が投票箱を開け、壇上の役員、そして会場の参加者に中が『カラ』であることを確かめさせるように持ち上げ、見せています」
臼井 「投票箱、閉鎖」

 いかがであろう。原稿には「投票箱が空である」とあったにちがいない。完全な読み違いとはいえないが、この場合「カラ」が適切ではないだろうか。
 しかし、絶妙ではないか。値千金のひと言ではないか。言い得て妙ではないか。当方も間違いのないようにいえば、的を射た、そして当を得た、かつ正鵠を得た発言ではないか。
 そうなのだ。これで2年連続。『空しく』ないはずがない。出来レースとも、茶番劇ともいわれたこの総裁選。投開票のクライマックスが空々しくないはずがない。投票以前にはたしかにカラ、だが投票後も紙は詰まっていても意味はカラ。あの箱の中に投じられた用紙は、空(クウ)を掴むほどに空虚な紙片に過ぎないのではないか。 ―― 『カラ』では即物的に過ぎる。やはりこの場合、『クウ』でしかあるまい。夢中夢説、すべては空(クウ)。そう考えると、実に文学的表現、発言といえる。一方、今回の総裁選をたった一言で概括、総括、集約した発言であったともいえる。臼井委員長の即妙な『誤読』、いや『読み替え』に脱帽するばかりだ。これを件(クダン)の劇の大団円での放屁、即ち最後っ屁と言わずしてなんと言おう。しかもおとぼけで、人知れず放った透かしっ屁。にくい委員長だ。

 自民党に提案がある。この際、総裁任期は1年とすればどうだろう。そうすれば、野党の喧(カマビス)しい批判はかわせる。なんなら、半年でもいい。ただし、現在の倍の40人以上の推薦者を集めた対抗馬がいなければ自動的に任期は延長されることにする。荒唐無稽と嗤うなかれ。なに、実態にルールを合わせるだけだ。

 投票が終わり、いよいよ開票である。

臼井 「投票箱、『カイサ』」
アナウンサー 「投票箱が開けられ、投票用紙が2メートル四方の机の上に広げられました」
 
 『カイサ』とは何だろう。前述の「閉鎖」から察するに「開鎖」か。しかしこれは誤読ではなく、誤用だ。開・閉の関連で開鎖と使ったのだろうが、開鎖には「開くと閉ざす」の意味しかない。この場合、「開票」で十分だ。それとも伝統ある自民党のタームでもあるのか。音読みすれば物事が厳かになるという効果を狙った浅知恵か。これは臼井委員長ではなく、事務方のミスであろう。

 国政の空白、行政の空転は許されない。ましてや一国のあり方を容易に開鎖できるものでもない。さて、新総裁殿。空振り、空元気で終わらぬよう、切に願う。 □


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