伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

因縁のアビガン

2021年05月06日 | エッセー

 「アビガン」(ファビピラビル)の名を聞いて1年が経つ。カムアウトすると、稿者はアビガンが錠剤、経口薬であることを知らなかった。飲み薬とはつゆ知らず、なんとも不明を恥じ入るばかりだ。国内産である。もしも新型コロナの抗インフルエンザ薬として実現していたら、ワクチン注射が不要になる。となれば、画期的な対策になったにちがいない。ところが、棚からぼた餅は落ちなかった。朝日は先日こう報じた。
〈コロナ薬にアビガン、実現は 安倍前首相「承認めざす」発言、1年
 新型コロナウイルス治療薬の候補として、注目を集めた「アビガン=ファビピラビル」について、安倍晋三・前首相が「今月中の承認をめざしたい」と異例の発言をして1年が経つ。
 アビガンは2014年、従来の薬が効かない新型インフルエンザ向けに承認された。細胞に入ったウイルスの増殖を抑える薬だ。製造元の富士フイルム富山化学が20年3月に新型コロナ向けの治験を始めた。
 有効性を示すデータがまだ出ていない昨年5月4日、安倍氏は会見で、「一般の企業治験とは違う形の承認の道もある」などと述べ、月内の承認をめざすとした。この直後に厚生労働省は、「治験データは後でも可」と早期承認が可能となる特例を設けた。だが患者が減り参加者が集まらず、治験と別の特定臨床研究では、統計的な有効性は示せなかった。
果の解析方法の不備も指摘され、承認は先送りとなった。
 アビガンは動物実験で胎児に奇形が出る恐れがわかり、副作用も懸念されている。承認前の薬だが、備蓄のための追加購入もあった。元々新型インフルのために約70万人分を備蓄していたが、厚労省は昨年度、新型コロナ治療のため、約134万人分を購入した。予算案では139億円を計上した。〉(5月5日付、抄録)
 ひょっとしたら、昨年4月の緊急事態宣言下で流行り歌を聴きながらペットとくつろぐあのインスタグラムはアビガンを当てにして高を括っていたのかしらん。
 振り返ると、昨年5月9日「東洋経済オンライン」が次のように報じていた。
〈安倍首相が推しまくるアビガン「不都合な真実」
 安倍氏はなぜここまで強くアビガンを推すのだろうか。その理由は定かではないが、日本の一部メディアは安倍氏と富士フイルムの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)との親密な関係に触れている。首相の動静記録によると、2人は頻繁にゴルフや食事を共にしており、最後に会ったのは1月17日だった。〉
 となるとモリカケで追求されている只中で、モリカケとまったく同じ構図のネポティズム政治を繰り返していたことになる。報道の真偽は問う必要はない。何度も言及してきたが、官人は推定有罪である。李下にいただけで、瓜田に入っただけで負けなのだ。国民は「あんな男」になめられ切っていたわけだ。ああ、悔しい! 
 この話、つづきがある。日本経済新聞ウェブ版は、14年8月25日、以下のように報じていた。
〈エボラ未承認薬、官房長官「提供する用意」
 菅義偉官房長官は25日午前の記者会見で、エボラ出血熱の治療に効く可能性がある未承認薬について、世界保健機関(WHO)や医療従事者の要請があれば提供する用意があると表明した。菅氏は「日本企業に各国から照会がある。未承認薬でも緊急に求められれば一定の条件のもとで対応していきたい」と述べ、WHOや関係各国と調整に入る考えを示した。〉
 18年9月11日の厚労省HPによれば、「ファビピラビルが投与された報告」が記載されている。WHOがエボラの終息を宣言したのは昨年6月25日であった。アビガンの薬効あらたかであったかどうかは寡聞にして知らない。それにしても「未承認薬でも」「対応」とは「あんな男」と瓜二つだ。ルール無視の独裁的手法。親分と子分だからもっともではあるが、なにやら因縁めいたものも感じる。
 政争の具にされたアビガン。哀しい薬だ。 □