伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

「ここ掘れ、ワンワン」 欠片の主張 その7

2007年07月26日 | エッセー
 報道によると、7月末から日本各地で親善試合を予定していたイタリアのサッカーチームが来日を中止した。イタリア1部リーグ(セリエA)に属するチームだ。新潟県中越沖地震による原発のトラブルが同国で繰り返し報道され、「地震で原発の放射能が漏れ、1万人が非難している」との風評が広がった。主催者は説得したが特に選手の親が反発し、やむなく中止となった。なお、新潟でも長野でも試合の予定はなかった。
 風評もいまや地球規模だ、と言うべきか。G8の参加国にして不甲斐ない、と言うべきか。答えに窮する。
 さて、災害のたびに考えることがある。「欠片の主張」としてまとめてみた。

 ファースト・プライオリティーは被災者の救助だが、次はライフラインの確保だ。ひとつには、通信。これは携帯電話の普及や災害時の通信制限、各種の伝言サービスの充実で相当改善が進んだ。
 問題は、電気・ガス・水道である。このうち、電気は復旧が早い。電線の地中化が進んでいないことが幸いしているのか、地上の断線や電柱の倒壊は目視が可能だ。発電機の使用もできる。ガスは、当座はプロパンで代用できる。ポータブル式のコンロもある。いざとなれば、木でも集めて火を焚くことだってできる。しかし、一番の難題は水である。
 最初に目にするのが自衛隊の給水車だ。阪神・淡路大震災の教訓をもとに災害対策基本法が改正され、市町村長に、知事を通じて自衛隊に出動要請する権限が与えられた。これで自衛隊の出動が迅速、簡素化された。それは喜ばしいことだが、もう一工夫ほしい。そこで、

  【 災害時、水の確保のため、自衛隊は井戸を掘れ 】

 と主張したい。
 自衛隊には工兵部隊がいる。1個師団に400から1000人の工兵隊員。陸上自衛隊は9個師団が全国に展開している。十分だ。井戸を掘るなど、造作もない。避難所などの要所に同時に何本も掘るのだ。古井戸の付近でもいい。土地の人に聞けばおおよその水脈は分かる。地震の場合は水脈が変わることも予想される。水脈に当たらないこともあるだろう。しかし油脈ではないのだから、ものの二三十メートルも掘ればいい。かつ、手彫りではない。ボーリングだ。イラク、カンボジア、ゴラン高原などのPKO活動で井戸掘りは実証済みだ。勝負は早い。一日もかからないのではないか。自衛隊の衛生部門でも保健所でもいい、その場ですぐに水質検査をして飲めるかどうか判断する。飲用に適さなければ、少なくともトイレか、洗濯、風呂には使える。水質によって使い分けができるのも井戸の利点だ。水道の復旧後はそのまま使ってもよし、あるいは閉鎖するのも手間はかからない。ポンプアップが必要なら、超低騒音の発電機がある。さらに事と場合によっては、イラクで使った浄水装置を考えてもいいのではないか。泥水でも海水でも飲めるほどにきれいにしてしてしまう優れ物だ。
 被災直後は給水車が必要だ。しかし、いつまでもという訳にはいかない。それに、飲用が主だ。1週間を超えてもまだ、新潟の避難所では簡易トイレを使っている。だからみな、水分の摂取を控えているそうだ。水分不足による病気が心配される。水道の復旧は容易ではない。地震で寸断された水道配管の破損箇所を見つけるだけで時間がかかる。ペットボトルでは間尺に合わない。人間の身体の7割は水分だ。まさに生命線である。
 養老 孟司氏はこう言う。「もともと日本人は世界でもっとも災害に対して強い人たちだったはずです。なぜならば、歴史上記録にあるマグニチュード6以上の地震の1割が日本で起こっていて、噴火の2割が日本で起こっているのです。その日本の陸地面積は世界の400分の1にすぎません。0.25パーセントしかない陸地の上で世界的な大災害の1割、2割が起こっているということは、かなりひどい災害国家なのです。そこでずっと生きてきたわけですから、本来災害に対する耐性は世界一だった。」ならば今こそ、経験を生かす時だ。ころばぬ先の「知恵」を絞りたい。

 以前取り上げた渋谷の温泉爆発。地球の薄皮を一枚めくれば、もう生の自然だ。この危うさは万代に変わりはない。□


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