伽 草 子

<とぎそうし>
団塊の世代が綴る随感録

大阪見回り隊

2021年04月06日 | エッセー

 「まん防」改め「重点措置」の実施に伴い、大阪で飲食店の見回りがスタートしたそうだ。『見回り隊』という。「摘発が目的ではない」とするが、どんなに物腰柔らかく立ち入り検査しようと科料に繋がる以上は「摘発」と同義とみざるを得まい。
 『見回り隊』とくれば、「京都見廻組」が連想される。さすが維新の会の府知事である。陳腐で危険極まりない発想ではないか。
 幕末、京都で討幕派が暴れまくった。「京都見廻組」は治安維持のため幕府が派遣した治安維持組織であった。同類の新選組は街中を担当し、見廻組は官庁街を管轄下に置いた。組士は旗本の二男、三男の中から剣術に優れた者が募られた。成功したかに見えたが、鳥羽伏見で大敗し、結局は霧散する。見回り隊と見廻組、なんだか同じ軌跡を辿りそうで胸苦しい。
 朝日新聞の調査によれば、昨年10月から本年3月までクラスターは高齢者施設での発生が突出している。続いて医療機関、企業と続き、飲食店は最下位である。なのに目の敵にされ、スケープゴートとして血祭りに上げられる。なんの因果か、同情を禁じ得ない。
 政治学者白井 聡氏が新著で舌鋒鋭い指摘をしている。
〈新型コロナによる危機はサイパン陥落の反復である。対米英開戦を決断することによって戦前の国体の墓掘り人となった東条英機首相は、サイパン陥落をもって退陣に追い込まれた。だから、安倍晋三が演じてきたのは東条の役どころということになろうし、東条の後継首相、小磯国昭が戦局の収拾(つまりは敗戦の受容)を求められていたにもかかわらず結局何もできず在職八ヵ月で虚しくも総辞職に至る成り行きを、菅義偉は反復しているように見える。〉(「主権者のいない国」から)
 これもまた見廻組と同じ轍だ。先駆け、決戦よりも殿、「敗戦の受容」は至難の業だ。凡庸には務まらぬ。さらに暗愚に限って強権を発動したがる。とどのつまりは軍場の露と消えゆく。この際だ。市中見回りではなく、早めに身の回りを片づけた方がよろしいのではないか。 □