「明けない夜」 (十一)―②

2017-08-23 08:20:09 | 「明けない夜」11~⑧

          「明けない夜」

            (十一)―②


 わたし達は竹口さんが運転する軽トラの荷台に乗って圃場へ向かった。

山の端を離れたばかりの朝日は微かな温もりを届けてくれたが、荷台に流

れ込む冷たい春風に追い遣られて吹き飛ばされた。彼女は髪をかき上げな

がら「風が気持ちいい」と言った。まもなくして車は止まったが、辺りは

芽吹いたばかりの樹木に覆われた山の中で何処にも圃場らしき平地は見当

たらなかった。ただ、一か所だけすべての樹木が伐り取られた山の斜面が

見えた。わたしは、

「圃場は何処にあるんですか?」

と聞くと、竹口さんは、

「あそこ」

と言って、その禿山の斜面を指差した。そしてその斜面に続く山道を歩き

始めた。わたしは足の不自由な彼女に「大丈夫?」と聞くと、竹口さんは

気付いて、軽トラへ引き返して鉈を取って、木の枝で杖を作って彼女に渡

した。彼女は礼を言って受け取って、竹口さんの後に続いた。しばらく行

くと、下から見上げていれば気付かなかった斜面は階段状になっていて、

立ち上がりには横たえた丸太を重ねてそれを杭が支えていた。そしてその

一段一段にはキャベツの苗が列をなして植えられていた。わたし達はしば

らくその奇妙な光景を眺めていた。そして、

「何でこんなとこに植えるんですか?」

と聞くと、

「無農薬で作るためだよ」

と言った。わたし達は2日前の研修でキャベツがどれほど農薬を使うのか

を見て来たばかりだったが、それにしても合点がいかなかった。

「でも不便でしょ?」

「確かに便利じゃないけど、慣れればそれほど気にならない」

「でも収穫の時は大変でしょ?」

「いや、収穫ほど楽なことはない」

「えっ、どうしてですか。持って降りるのは大変でしょ?」

「だから持って降りない。転がすんだよ」

わたしはますます合点がいかなくなった。

                          (つづく)



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