「安倍と無知」のつづき

2017-03-19 06:13:51 | 従って、本来の「ブログ」

            「安倍と無知」のつづき

 かつては開かれていた未知の世界も科学技術の進歩がもたらした

グローバリゼーションによって地球(the globe)は金魚鉢(globe)の

ような既知の閉じた世界に変貌した。すでに「メイドインジャパン」

を売り歩く営業マンたちによって、かつて神の福音を伝道するために

宣教師たちが駆けずり回って世界中に建てた教会に代わって「営業所

」が作られた。教会ならば少なからず救いの手を差し伸べてくれたが

、路頭に迷う者にとって営利目的の営業所は何の頼りにもならない。

論語に「寡なきを患えずして均しからずを患う」と為政者の心構えを

説いているが、いまや金魚鉢の中は人で溢れ返り近代社会の下での豊

かさにも限りが見え始め、「寡なきを患い」ても詮無いことだと覚れ

ば誰しも「均しからずを患う」のが人情である。冷たい水が入った金

魚鉢にいくら熱湯を注いでも熱は熱い水から冷たい水に移りやがて混

ざり合って温度は均一になる、そしてその逆は決して起こらない。人

間の経済活動がもたらす格差社会の問題は一概にエントロピーの法則

に当てはめて語れないが、と言うのも全ての生物はエントロピー増大

に抗って生命秩序を維持しているのだからそう易々と物理現象に流さ

れたりしない。物理学者シュレーディンガーは著書「生命とは何か」

(岩波新書G80)の中で「生物体は『負エントロピー』を食べて生き

ている」と書いているが、全ての生物は生きるために常に外部から『

負エントロピー』を摂らなければ生命秩序が維持できなくなりエント

ロピーが増大してやがて物質に還る。しかし世界は科学技術がもたら

したグローバリゼーションによって近代化が進み自然環境が破壊され

、『負エントロピー』をもたらす外部が埋め尽くされて地球は金魚鉢

のような閉じた世界になった。外部が埋め尽くされた閉じた世界の下

での格差は「均しからず」を意識させざるを得なくなる。

 

                       (つづく)


「安倍と無知」(改稿)

2017-03-07 04:52:30 | 従って、本来の「ブログ」

          「安倍と無知」(改稿)


年初を大きな時代転換の予感に心が騒いで穏やかに迎えることが出来

なかった気もするが、ではいったい何が心を騒がしているのか、謂わば

「ぼんやりとした不安」を書き残して置こうと思ったのですが、もとよ

り気が多い性格で筋道を立てて結論を導くなどというのは極めて不得手

なので、パソコンに向かって「心に移りゆく由なし事をそこはかとなく

書きつぐ」ろうと思います。たぶんオートマティスム(自動筆記)のよ

うな一貫性のない矛盾した記述になると思いますが、「あやしうこそも

のぐるおしけれ」と思ったら見捨てて下さい。そもそも題名の「安倍と

無知」も沖縄の米軍基地の県内移設を巡る辺野古訴訟の最高裁判決のニ

ュースで、解説者が沖縄に対する日本政府の対応を「アメと鞭」と言っ

たのを「聞きまつがい」しただけで特に深い意味はありません。

 すでにアメリカではトランプ新大統領が就任して新政権に対する様々

な意見が飛び交っていますが、アメリカ政治の迷走はそもそも黒人のオ

バマ前大統領が選らばれた時から始まっていたと思う。かつて日本の或

る議員は「奴隷の子孫でも大統領になれる国」とアメリカ民主政治のダ

イナミズムを評したが、私はオバマ氏が選ばれた時以上にトランプ氏が

選ばれたことに驚かされたということはなかった。つまりアメリカ社会

の停滞はずっと以前から始まっていた。それよりもバーニー・サンダー

ス氏が民主党の指名争いで特に若者たちから多くの支持を集めたことの

方がはるかに驚きだった。トランプの勝利はアメリカンドリームの幻想

から覚めやらない保守層たちのオバマ政治に対する反動で、左に寄り過

ぎたので右へ振り戻そうとしているが、しかし過ぎ去った時代へ戻るこ

となど出来ないだろう。高坂正堯氏は著書「日本存亡のとき」の中で、

「そもそも“孤立主義”という言葉はアメリカがつくったもの」と言い

、さらにアメリカは「過去50年(1992年刊行)と第一次世界大戦

の短期間を別にして、孤立主義の原則の下に生きてきた」と書いている

。フロンティアスピリットに育まれたアメリカンイズム「我が道を行く

」は他者に追随することを潔しとしない。そしてアメリカは孤立主義の

下でも充分生きていけるだけの資源にも恵まれている。つまりトランプ

氏が主張する「アメリカファースト」は原点回帰にすぎない。奇しくも

同じアングロサクソン系の国家であるイギリスはアメリカに先だって国

民投票の結果EU離脱を決めた。同著によると「イギリスは当時(19

世紀中葉)最大の通商国家であったし、その上世界にまたがる植民地を

持っていた。それにもかかわらず、イギリス人たちは、“光栄ある孤立”

を口にしていた。」とある。高坂氏によると「通商関係が多いことが孤

立主義でないことを意味するわけではない。孤立主義の特徴は国際政治

への関与を避けることにある。」そして「孤立主義のもうひとつの特徴

は内政中心主義である」と言う。すでにオバマ政権下では中東の紛争か

ら手を引いて軍の撤退を決めた。アメリカは「世界の警察」から身を引

いて内政中心主義へ向かおうとしている。実は、ロシアとの関係修復は

そのためなのかもしれない。それは覇権主義を強める中国とのにらみ合

いが続く我が国にとってはアメリカの後ろ盾を失うことは忌々しき事態

である。尖閣諸島を巡る対立では、かつてオバマ前大統領は尖閣諸島を

「岩」と言ったくらいで、アメリカにとってはたかが「岩」を巡る紛争

に派兵したくはないだろう。しかしアメリカが極東でのプレゼンスを縮

小させれば海洋進出を窺う中国にとっては覇権拡大を狙う絶好の機会を

与えてしまう。私はそもそも護憲論者だったが、日に日に高まる「日本

存亡のとき」を想定して後ろを振り返ったら、自分を守ってくれるもの

は「戦争反対」を声高に叫ぶ善良な市民だけだったというのは少し心細

くなることもある。

 世界は今や想定外だったトランプ氏のアメリカ大統領当選に戸惑い、

彼が漏らす「囁き」に翻弄され続けているが、そもそも彼の「囁き」が

国家の壁を超えて世界中に拡散できるのはITイノベーションがもたら

したグローバリゼーションの結果によるのだが、しかもそのITイノベ

ーションをリードして最もその恩恵を受けたはずの国家のトップが、I

T端末を駆使して時代錯誤な国境に壁を作ることを訴えていることに今

のアメリカ社会の行き詰まりが窺える。人を動かすのは情報であって福

音を受け取った信者は如何なる壁も易々と乗り越えるのだ。そもそも全

ての国家は自国第一主義の下で政治を行なっているのだが、トランプ大

統領は敢えて「アメリカファースト」を訴えなければならないほどアメ

リカの経済競争力は低下している。フロンティアを失ったフロンティア

スピリットは何に希望を求めればいいのか迷走している。

今や地球は70億を超える人間で溢れ返り、すでに人跡の及ばない地

は何処にもなく、それどころか科学技術の進歩がもたらした足跡は月

面にまでにも到り、間もなく火星にまでも及ばんとしているが、その

人間が追い求める豊かさは自らの存続を脅かすほどまで生存環境を悪

化させ、人口爆発とエネルギーの枯渇とそれによってもたらされる環

境破壊から余白を埋め尽くした近代文明は飽和状態に達し愈々限界を

迎えようとしている。かつてテレビで、アラブ社会の伝統的な衣装を

身にまとった遊牧民族ベドウィン族の男性が、広大な砂漠の中を西側

社会では馴染みのショッピングストアのレジ袋を提げて歩いているの

を見て複雑な思いをしたことがあったが、すでに近代文明の波は世界

の隅々まで及び、限りない人間の欲望が限りある地球の豊かさを追い

求めて競い合っている。そんな時代にトランプ新大統領をはじめとす

る保守系の人々は、そこには安倍総理をはじめとする日本の保守系の

人々も含まれるが、まるで渋滞する道路から脱け出そうとして次から

次へと押し寄せる後続の車に逆らって方向転換をしようとしているが

、すでに後戻りするための道路は延々と後続車で塞がれているのだ。

もしもどうしても古き良き時代へ戻りたければ、車から降りて、つま

り近代文明を棄てて歩いて引き返すしかないだろう。近代文明がもた

らしたグローバリゼーションの波を高い壁や短絡的な低い愛国心で防

げるとは到底思えない。仮に、埋め尽くされた余白を取り戻そうとす

るならばたぶん戦争しかあり得ない。限界に達した世界で更に豊かさ

を求めるならば他者から奪い取るしかないからだ。それとても所詮奪

われたものを取り戻すだけのことでしかない。もしも、限られた環境

の中で飽和に達した人類が争わずに生きていくためには様々な自由は

制限され社会的富は公平に分け合うしかない。確かレーニンだったと

記憶しているが、「自由は大切だ、だから平等に分け与えなければな

らない」と言ったが、果たして「分け与えられた自由」を自由と呼べ

るだろうか?「自由と平和」、この相反する命題を両立させるために

は自由が許される「場」がなければならないが、飽和に達した世界限

界の下では自由が許される場が失われる。すでに近代都市では様々な

自由が制約されているが、いずれ世界は「自由か平和か」、つまり「

奪い合うか分け合うか」の二択を迫られるに違いない。しかし奪い合

うことから好ましい関係が生まれてくるとは思えない。すでに先進各

国は山の頂上(サミット)に立って居るにも拘らず、更なる上を目指そ

うとして飛び上がっては滑り落ち、滑り落ちた分を這い上がるだけの

経済成長を繰り返しているが、そもそも狭い頂上に立てる人数には自

ずから限りがあってお為ごかしの経済政策を繰り返す度に格差社会は

ますます拡がっていく。アベノミクスとは経済成長に取り憑かれた経

済人の幻想で、いずれそのツケは未来の人々に負わされる。「時代は

繰り返す」と言われるが、今はまさに大戦前夜の不穏な時代に似てい

る。当時の思想家北一輝(1883~1937年)は著書『国体論及び

純正社会主義』の中で社会の底辺で生きる人々を「生きるとより死に至

るまで脱する能わざる永続的飢饉の地獄は富豪の天国の隣りにて存す」

と述べているが、差はあれ「ウォーキングプア」と呼ばれる今の時代の

貧困層の人々も社会を共有しているとは思っていないだろう。世界限界

の下では経済成長は滞り、運よく成功を手に入れた富者の下に無数の貧

者が生まれる。ITイノベーションはまさにそれで、シリコンバレーの

ごく一部の成功者だけが巨万の富を得る一方で、既存の情報関連産業の

下に従事していた多くの人々が職を奪われる。かつてならパイオニアた

ちが目指したフロンティアもグローバリゼーションによって世界中が近

代化して埋め尽くされた。世界限界の下では、つまりパイの数が限られ

たテーブルで争わないためには等しく分け合うしか方法はない。


                           (つづく)