「生まれ出づる歓び」(九)

2019-04-24 01:37:07 | 「生まれ出づる歓び」(六)~(十)

        「生まれ出づる歓び」


            (九)


 佐藤の要請を受けて故人の音声を再生させた会話アプリの開発がスター

トした。すでにAIを使った会話アプリは実用化されていたが、われわれ

の企画の成功は一に故人の声の再生にかかっていた。佐藤がプレゼンする

第一回目の打ち合わせはわが社の音声技術部の技術室で行われることにな

っていた。その佐藤は約束の時間ギリギリになって来社した。おれは担当

の野口にデンワでその旨を伝えてから佐藤を迎えに行った。佐藤は地味な

ブルゾンにパンツというラフな格好だった。そう言えば、これまで彼のス

ーツ姿を見た覚えがなかった。シリコンバレーから始まったIT起業家た

ちのファッションに拘らないライフスタイルは、この国の業界でも一応の

市民権を得ていた。佐藤は、

「お前の会社に入るのは初めてだよ」

「あっ、そうだっけ」

そう言やあ俺たちはもっぱら居酒屋で酒を酌み交わすばかりで、一緒に仕

事をするのはこの日が初めてだった。


                          (つづく)


「あほリズム」(496)

2019-04-18 07:31:39 | アフォリズム(箴言)ではありません

         「あほリズム」

 

          (496)

 

    「術の日産」

 

          (497)

 

 天皇とはこの国の「重し」である。

 ところで、「重し」が表舞台に引っ張り出されて

 脚光を浴びる時代はこれまでも総じて平和な時代

 とは言えなかった。われわれは皇室に「重し」以上

 の期待をしないように「自重」しなければならない。

        過熱する皇室報道を憂いて  ケケロ

 

          (498)

 

『森喜朗氏(81)が日本ラグビー協会名誉会長の辞任を表明した。』

「そっちかいっ!東京オリ・パラ会長は辞めないんかい!」


「あほリズム」(493)

2019-04-17 01:14:25 | アフォリズム(箴言)ではありません

          「あほリズム」

 

           (493)

 

 自由とは何か?

 自由とは意志することである。    ニーチェ

  意志なき生命は家畜である、従って家畜は自由を求めない。

                     ケケロ

 

 

           (494)

 

 天皇とは何か?

 天皇とはこの国の「重し」である。

 「重し」を失った社会はバラバラになって浮遊し

 やがてニヒリズムが蔓延る。       

                       ケケロ

 

            (495)

 

 社会とは何か?

 社会なんて所詮「ヤラセ」だ。 

 安倍政治を見ろ、阿諛追従の輩の集まりじゃないか!

                      ニヒリスト

 

             


「広島県三次市 尾関山公園」

2019-04-11 14:04:59 | 従って、本来の「ブログ」

             「広島県三次市 尾関山公園」

 

 そもそもは文章だけを投稿しようと思っていたが、たまたま写真を撮ら

なければならなくなったので、ついでに近所の桜の名所「尾関山公園」の

写真を投稿します。

      

ここには、あの忠臣蔵の赤穂藩主浅野長矩に嫁いだ三次藩主浅野長冶の娘

阿久里(あぐり)姫の像が立っています。浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)

は殿中にて刃傷沙汰を起こして即日切腹を命じられました。

 浅野内匠頭の辞世の句は、

風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残を いかにとかせん

満開の桜が散る頃でした。尾関山が桜の名所であるというのは何か因縁を

感じずには居られません。彼女は夫の死後、落飾して瑤泉院(ようぜんいん

)と称し、享年41歳で三次浅野家下屋敷で死去しました。

この日は月曜日だったので、花見客は見かけなかったが、前日の祭りの

あとの名残りは感じられました。

「三次」は(みよし)と読み、三次市は中国山地の山間の三次盆地にありま

す。三次の謂れは諸説ありますが、そのうちの一つに河川の集まる地とい

う意味の「水寄(みよせ)」が訛ったとする説がありますが、ただ、それが

どうして「次」の字を充てるようになったのかの説明にはなっていません

。写真の左から流れる馬洗川に西城川が合流して右から流れる江の川(ごう

のがわ)と3本の川がまとまった江の川は日本海へ流れます。三つの川が合

流するたもとに架かる橋は「巴橋」と言います。写真の左にまっすぐに走

る線路は去年廃線になった三江線です。線路は尾関山の下をトンネルが貫

 通していて、江の川に沿って島根県の江津

 まで100キロ余り繋がっていました。

 尾関山の向かいには浅野家の菩提寺鳳源寺

 があります。

    

瑤泉院を供養した五輪の遺髪塔がある鳳源寺

大石内蔵助手植えの枝垂れ桜   ここにも阿久里姫の像が

       

赤穂浪士47人の出立の姿を模した木像を安置する義士堂

 

三次では毎年12月に義士祭が行われる。陣羽織で義士に扮した有志が

義士堂前で法要を営む。

                             (おわり)


「生まれ出づる歓び」(六)

2019-04-08 05:33:10 | 「生まれ出づる歓び」(六)~(十)

         「生まれ出づる歓び」


            (六)

 

 間もなくして佐藤が作ったスマホ専用のAI搭載のアプリが配信

された。「AIによるあなたの将来予測」とサブタイトルがあって

、なんとタイトルは「一炊の夢」だった。そしてこれまでの占いシ

リーズで使われていたコミカルなキャラクターが一変して劇画調で

描かれていた。間近に卒業シーズンを控えていたこともあって、進

路の選択を迫られた若者たちからのダウンロードが瞬く間に激増し

た。それはすぐに業界でも話題になり、ネット上にはAI搭載アプ

リの可能性についての記事が殺到していた。おれはしたり顔の佐藤

を思い浮かべながら何度か祝福のメールを送ったが一度も返信して

来なかった。多分忙しくてそれどころではないのだろうと思って気

に掛けなかった。数日後、いつものように仕事帰りの電車の中で、

すでに空席が目立つ車両の座席に腰を下ろして、スマホでニュース

を見ようとして、一つの見出しに目がいった。

「生保の個人データ200万件流出、売買目的か?関係者を聴取」

おれはすぐに佐藤がつぶやいた言葉を思い出した。

「とにかくデータが欲しいんだ、それも個人の」

早速ニュースの内容を確かめると、流出したのは住所氏名は番号化

された個人情報で、そのデータから特定の個人に辿り着くには更な

る情報が必要だったが、それこそが佐藤が欲しがっていたデータに

他ならなかった。おれは停車した途中の駅で下車して佐藤にデンワ

をしたが繋がらなかった。彼の嫁さんの久美ちゃんにもデンワをし

たが繋がらなかった。そして「間違いない」、佐藤に違いないと思

って、こうなったら彼の家に行くしかないと思って、引き返すため

に対面する反対側のホームへ降りた。

 人影のないホームに佇んで電車が来るのを待っている間に、彼が

作ったアプリ「一炊の夢」を恐る恐る開いた。するとアプリは通常

通りに使うことが出来た。彼のアプリは適職診断のようなアンケー

ト形式で、ただ一択ではなく複数の選択ができた。例えば「好きな

学科は?」という問いには文系と理系の二択があって両方とも選ぶ

ことができたが、そうすると選択の項目が画面をスワイプしなけれ

ばならないほど出てきた。なるほどこれがAIによるのだなと思い

ながら最後まで答えると予測結果が出て、職業、年収、地位、そし

て寿命までも、その確率をパーセンテージで予測してくれた。何と

いっも寿命予測がこのアプリの売りだった。もちろん検査データの

入力は必須だが、他にも既往症や食生活や生活習慣のの嗜好など多

岐にわたっていた。そして今の生活を続ければ何パーセント確率で

寿命何歳と表示された。おれは彼のアプリがまだ削除されずに残っ

ていたことにすこし安堵した。
 
 スマホを弄っていると、ホームのアナウンスが次に来る電車が最

終電車だと告げた。その時、おれはその最終電車に乗ってしまった

ら、もしも佐藤の家に行って留守だったら帰れなくなると気付いた

。「やばい」今日は諦めて明日にしようと思って元の反対のホーム

に戻ろうとした。通路を上っていると最終電車が到着したのが分っ

た。「よかった乗らなくて」と思って元のホームに戻ってくると、

何故かホーム全体が薄暗かった。ちょうど駅員が掃除をしていたの

で、「次は何分後ですか?」と訊くと、「もうとっくに最終電車は

出ましたよ」と言った。そうだ!おれは最終電車に乗っていたのだ

った。おれは向かいのホームにしばらく止まっていた最終電車もベ

ルが鳴ると大きなスカ屁をして出て行った。静まり返ったホームに

独りとり残された自分はしばらく茫然と立っていた。

                        (つづく)