「あほリズム」(488)~(490)

2019-03-27 06:32:27 | アフォリズム(箴言)ではありません

          「あほリズム」

 

           (488)

 

 グローバリゼーションによって世界は外部を失った。

外部なき世界とは閉鎖した世界であり逃げ場所のない世界である。

 かつては「人生到る処青山あり」と嘯(うそぶく)くこともできた

かもしれないが、今や「青山は至る処(だれかの)人生で溢れ返っている」

           

           (489)

 

 「世界限界論」の下では、右に行っても左に行っても

 成長の余地はない。つまりアベノミクスとは成長幻想

  であり巨額の負債を生むだけだ。

           

            (490)

 

 安倍政権は建前政治、本音は何も改めない。


「あほリズム」(485)

2019-03-11 04:08:13 | アフォリズム(箴言)ではありません

 

          「あほリズム」

 

           (485)

 

 「ある日あるところで大地が震え多くの命が失われた」

 この疑いようのない事実がよりいっそう人々を悲しませる。 

 

           (486)

 

 大震災が起こって多くの人が亡くなった。

 時を経てふたたび人々に日常が戻ってきたが、

 亡くなった人は戻ってこなかった。

 

 

           (487)

 

 本能は理性に先行する


「生まれ出づる歓び」(一)

2019-03-09 15:18:54 | 「生まれ出づる歓び」(一)~(五)

        「生まれ出づる歓び」 

 

            (一)

「一炊の夢って知ってる?邯鄲の夢とも言うけど」

 佐藤とおれは大学の同期でそれから20年来の親友である。もともと

彼は文系の学部に進学したが、2年生の時に「これじゃあ多分飯が食え

ねえ」と思って中退して、おれと同じの大学の情報工学部に入学し直し

たのでおれより2コ上だった。時はITバブル全盛の頃でITビジネス

の若い起業家が世間の注目を浴びていた。日本経済は「失われた10年

」と言われていたが、なるほど彼が狙った通りに就職先は引く手数多で

就活に奔走することもなかった。おれはすでに中堅だったIT関連の会

社に潜り込んだが、彼は敢えて出来たばかりのゲームソフトの会社を選

んだ。間もなくして彼はコンピューターによる占いのソフトを開発して

、それが人気を博して会社の業績を飛躍的に伸ばして、彼は数年でその

部署の役職を任された。彼とは卒業してからも親しくしていて酒を酌み

交わしては親交を温めていた。その夜も馴染みの居酒屋でとりとめのな

い世間話をしていたが、話題が尽きた頃に酔いが回ってきたのか彼が改

まってそう言った。おれは、

「えっ何?」

「一炊の夢」

「ああ、あれか、夢の中で自分の人生を見てしまうって話か?」

「まあそうだ」

「それがどうした?」

「・・・」

すでに彼は酔っていた。

「なんかさ、生きているのが虚しくなってしまったんだ」

「おいおい、いったい何があったんだ?」

「いや、何も問題はない。ただ面白くない、それだけだ」

「・・・」

おれはどう応えていいのか分らずに黙って彼のことばを待った。

 改めて「一炊の夢」をウィキペディアから引用すると、

「趙の時代に『盧生』という若者が人生の目標も定まらぬまま故郷を離

れ、趙の都の邯鄲に赴く。盧生はそこで呂翁という道士(日本でいう仙

人)に出会い、延々と僅かな田畑を持つだけの自らの身の不平を語った

。するとその道士は夢が叶うという枕を盧生に授ける。そして盧生はそ

の枕を使ってみると、みるみる出世し嫁も貰い、時には冤罪で投獄され

、名声を求めたことを後悔して自殺しようとしたり、運よく処罰を免れ

たり、冤罪が晴らされ信義を取り戻ししたりしながら栄旺栄華を極め、

国王にも就き賢臣の誉れを恣に至る。子や孫にも恵まれ、幸福な生活を

送った。しかし年齢には勝てず、多くの人々に惜しまれながら眠るよう

に死んだ。ふと目覚めると、実は最初に呂翁という道士に出会った当日

であり、寝る前に火に掛けた粟粥がまだ煮揚がってさえいなかった。全

ては夢であり束の間の出来事であったのである。盧生は枕元に居た呂翁

に『人生の栄枯盛衰全てを見ました。先生は私の欲を払ってくださった

』と丁寧に礼を言い、故郷へ帰って行った。」とある。「一炊の夢」と

は粟粥が煮えるまでのわずかの間に、自分の一生を夢の中で見た男の話

である。

 彼は、いまAIを応用して個人々々の将来の可能性を予測するアプリ

を開発しようとしていた。すでに「将来予測」という名称で占いによる

種々のアプリは版を重ねて作られていたが、彼曰く「まったくデタラメ

」だったので、一新してデータに基づいた個人の将来から寿命までを予

測するソフトを開発しようと模索していた。そこで、

「とにかくデータが欲しいんだだ、それも個人の」

「だけどそれって個人情報でしょ?」

「そうなんだ」

彼は、行政が公表する統計などは隈なくデータ化してきたが、もちろん

特定できる個人名はまったく求めていなかったけれど、例えば生年月日

や生い立ち、最終学歴や病歴、さらには性格や特技などの詳細な情報か

ら得られる社会的地位や寿命までもデータ化して、それぞれの利用者の

将来の選択肢を予測しようと考えていた。おれは、

「そんなことが予測できるのかね?」

「たとえば俺たちは同じ専門の学部を出たけれど、二人とも専門外の職

に就いたりなんかしていないじゃないか」

「まあそうだけど」

「もちろん予測できないことの方が多いけれど、社会の選択肢は限られ

ている」

「そうかな?」

「仮にそれを拒否してドロップアウトすれば、よほどの幸運でも訪れな

い限りたちまち貧困が訪れる」

「ま、いまさら他の選択肢なんて考えられないので会社に居る限りある

程度将来の予想はつくけれど。それが面白くないと言うのか?」

「まあそうだな」

彼は、開発途中のソフトに何度も自分自身のデータをインプットして、

自分の将来を予測させた。その結果、然したる幸運に恵まれることもな

く60代で死ぬと予測された。

「実は俺の親父もちょうど60才で死んだんだ。もしそうだとすればあ

と20年も無いからな」

彼は自分が開発したソフトによって「一炊の夢」を見てしまった。

「実際、自分の一生はたぶんそうなるだろうと思うとやり切れなくなっ

てさ。じゃそれはそれで終わったことにして別の人生もいいんじゃない

かなって思っているんだ」

「何を言ってるんだ、久美ちゃんや子どものことを考えたらそんなこと

出来るわけないだろ」

久美ちゃんとは彼の嫁さんで結婚前からおれもよく知っていた。

「わかってるさ」

佐藤は申し訳なさそうに呟いて、コップの焼酎を呷った。

 

                           (つづく)


「生まれ出づる歓び」(二)

2019-03-09 15:17:40 | 「生まれ出づる歓び」(一)~(五)


          「生まれ出づる歓び」

 

             (二)

 おれは、佐藤の迷いがまったく理解できない訳ではなかった。技術革

新の著しいIT業界に身を置いて齢40を過ぎるとさすがにその変化に

着いて行けなかった。若い頃なら第一線に立って寝る間も惜しんで知識

の習得に励んだりもしたが、若い者に仕事を譲った今では、体力の衰え

だけでなく、学習意欲さえも湧いてこなくなっていた。さらに、多分ど

この職場でも同じことだとは思うが、煩わしい人間関係に悩まされいっ

そ辞めてしまおうかと思ったことは一度や二度ではなかったが、しかし

妻や子のいる家庭に帰るとそんな思いはすぐに翻った。

 ある時怖ろしい夢を見た。「一炊の夢」ではないけれど、山の中で迷

ってしまい、生まれ育ったのは田舎だったので山には馴染みがあったか

らだと思うが、行きつ戻りつを繰り返していると、どういうわけかいけ

好かない同僚が、彼は猜疑心の強い男で詮索好きで、他人の噂話を吹聴

しては人に取り入ろうとしていた。その彼がひょいと現れて、

「こんなところで何をしているんだ?」

と言った。おれは、

「山を降りようとしているんだが、どうしても道がわからない」

と言うと、彼は、

「何を言ってるんだ、この道をまっすぐ行けばいいんだよ。途中にトン

ネルがあってだんだん狭くなっていくけど、そこを抜ければすぐだよ」

おれは彼に礼を言ってその道を進んだ。すぐにトンネルがあって迷わず

に入って行った。始めのうちは充分立って歩けたが、彼の言うように徐

々に天井が迫ってきて腰を屈めないと前には進めなくなった。やがてそ

の先は真っ暗で四つん這いにならなければ前に進めなくなったが、おれ

は疑心を振り払いながら前に進んだ。そして遂には体が漸う通るくらい

の狭い穴の中を腹這いになって進んだが、しかしそれでも出口は見えて

こなかった。もしもこんな時に地震でも起これば生き埋めになってしま

うと恐怖に怯え、もはや疑いが振り払えなくなって引き返そうと思った

が、狭い穴の中で向きを替えることさえ出来ず、しかも腹這いのままで

は後ろに戻ることも出来ず、ただ前に進むことしか出来なかったが、い

つになったら抜け出せるのかさえ判らなかった。恐怖を感じたおれは、

「くそっ!あいつにダマされた」

と叫んだところで眼が覚めた。全身からは脂汗が噴き出していた。

 また、殊に若い社員との考え方の違いに愕然とした。彼らはさすがに

言われたことの呑み込みは早かったが、ところが何故そうしなければな

らいかといった連想はほとんど働かせようとはしなかった。だから教え

られたこと以外のイレギュラーな事態が起こると信じられない仕方によ

ってその場凌ぎの処理をして繕った。後になって修復のために作業が滞

ることが何度も起こった。つまり、彼らは目の前の効率ばかりを意識し

て先の非効率を考えようとはしなかった。ある日、使った後の会議室の

掃除を新人の女子社員に頼むと、10分も経たないうちに「終わりまし

た」というので驚いて見に行くと、イスは放置されたままでゴミ箱には

ゴミが溢れて、「一体どこを掃除したのか?」と訊くと、「机の上を拭

きました」と言ったが、絞り切れていない雑巾で拭いた後の滴が其処彼

処に見られた。「ダメじゃないか、きちんと絞らなきゃ」と言うと、「

大丈夫ですって、すぐに乾きますから」と言い返した。さらに、どうで

もいいことかもしれないが、字がヘタで読めなかったし、メールのよう

な短文しか書けなかった。一言で言ってしまうと何もかもが「がさつ」

だった。おれは彼らをちょうど三人いたので「がさつ三兄弟」と呼んで

いたが、始めの頃は何度か注意もしたが次第に諦めざるを得なくなった

。と言うのも、彼らはあのいけ好かない同僚から可愛がられていたから

で、更に、そもそもIT技術とは情報手段である一方で、これまでの煩

雑な作業を効率化することによって進化してきたからである。やがて我

々はペンを持って字を書くことすら面倒臭くなってしまうに違いない。

技術を機械に委ねて、果たして我々の生命体としての能力そのものは退

化していないだろうか?


                          (つづく)

 


「生まれ出づる歓び」 (三)

2019-03-09 15:16:20 | 「生まれ出づる歓び」(一)~(五)

             「生まれ出づる歓び」


                 (三)

 最後に佐藤と会ってから半年余り経って、もちろんデンワやメールの

やり取りは頻繁にしていたが、彼の方が忙しくなって再会する機会がな

かった。彼は、目が開いているうちは昼夜を問わずパソコンのモニター

画面ばかり見ているとぼやいた。ところが、年が改まって早々に彼から、

「できた!やっと完成した!!!」

というメールが来て、これまで彼が取り組んできた新しいソフトが出来

上がったことを知った。すぐにデンワをして「おめでとう」と言うと、

彼の方から祝杯をあげようと言い出して、早速その日の夜に会うことに

なった。少し遅れていつもの居酒屋に入ると、すでに彼はいつもの席で

いつもの「とりあえずビール」を呷っていた。二人とも会社員だったが

、彼はソフト開発に伴う幾つかの著作権を持っていたので、彼の方がは

るかに所得は多かった。だから勘定はいつも彼が気前よく払ってくれる

ので、おれは財布の中を気にせずに彼の誘いに従った。ただ、彼は酔い

が回ってくると愚痴っぽくなったが、それを聴いてやることも勘定の中

に入っているんだと思って付き合った。ただ、その夜は念願だった仕事

をやり終えた後だったので、彼は終始上機嫌で雄弁だった。

「近代社会も成熟してくると敢えて社会の仕組みを変えるような改革は

しづらくなる。そんなめんどくさいことをしなくたってそれなりに快適

に過ごせるから」

彼の世間に対するシニカルな見方におれは心の中でまた始まったと思っ

たが、付き合うしかなかった。

「ぬるま湯から脱け出せないってことだろ」

「だってあれほど熱心に首都を移転させると言ってたのに、結局何も出

来なかったじゃないか」

「あったよな、そんなこと」

「変わらない社会の枠組みの中で俺たちの選択肢はどんどん限られよう

としている」

「・・・」

「それって実は管理する者にとっては扱い易いんだよね」

「バラツキがなくなるもんな」

「それにAIによって管理社会はますます進んでいくだろう」

「おれもそうだと思うよ」

「それってさ、実は家畜と同じなんだよね」

「ちょっとそれは言い過ぎだろ?」

「いや、おれたちは今回のプロジェクトで何度も人はどっちを選択する

かのシュミレーションをやったんだ。たとえば、快適と不快なら当然誰

もが快適を選ぶだろ」

「まあそうだよね」

「じゃあ快適と正義ならどっちを選ぶ?」

「ちょっと抽象的すぎて選べないよ」

「だったら、サイフを拾ったらほとんどの日本人は警察へ届けるよね」

「うん」

「じゃあ、裸のままの現金を拾ったらどうする?」

「たぶん金額によると思うけど、千円程度ならネコババするかもしれな

いね」

「それってどうしてだと思う?」

「そりゃあ足がつかないからさ」

「だったら裸のままの一億円を見つけたらどうする?」

「それはいくら何でも足がつくから届けるだろ」

「つまり個人的な快適と社会的道義のどちらを選ぶかは状況の違いによ

ってその選択も変わるってことだよね」

「まあそうだ」

「社会の中で暮らしている限りは社会的道義に従うけれども、社会的道

義が問われなければ快適の方を選らぶってことだろ」

「そうだな」

「そこで俺たちは個人の意識を本能が支配する個人的自我と、理性が支

配する社会的自我に分けたんだ。それを俺たちはバイセルブスって呼ん

でるんだけど」

「それって本音と建前ってことじゃないの?」

「ま、そうだけど、何て言うかその距離感がまったく違う」

「距離感?」

「実際もう誰も本音なんかで生きてないからね。二―トかヒッキ―くら

いしか」

「そうかな?」

「だって社会が巨大化して個人の欲望なんてすべて満たしてくれるから

卑屈な自己意識しか生れてこない」

「だけど社会から外れたからって自由に生きることなんて出来ないしさ

「自由って言うけどそれって社会的自由でしかないからね。リードを外

されているかもしれないけれど首輪は着けられたままなんだ」

「でも、仮に社会を捨てたとしても、生きていくためにははやっぱり食

うこととか住む処とかに縛られるんだから、それって同じことじゃない

の」

「同じじゃないさ、どれほど独りで自由を持て余したとしても、ケツの

穴まで洗ってくれる便器なんて思い付かないさ。俺たちはもうこの快適

な暮らしから遁れられなくなってしまって家畜化しているんだ」

「確かに文明の進化が人間を退化させるというのは分るけど、だからと

言って文明を棄てて自然に還ることなんて絶対出来ないよ。たとえば温

暖化問題だってさ、このままだと百年後にはとんでもないことになるっ

て言われても、とりあえず今は大丈夫だと言ってるようなもんだから誰

も変えようなんて思わないさ」

「特に日本人は事なかれ主義だからね。敢えてぬるま湯から抜け出そう

なんて思わない。首都移転にしてもさ、ダメもとでもいいからやっちゃ

えば良かったんだよ。東京の一極集中なんて前から分ってたんだしさ」

「いや、絶対出来っこないって!だって、いくら理屈で解っていても最

後は情緒が決めるんだからこの国は。変われるわけがない」

「ただ、管理する者は設定が変わってしまうことを嫌がるんだよね。蓄

積したデータが使えなくなるから」

「まあそうだろうな」

「俺たちさ、まあ大したデータを基にして他人の将来を予測しているわ

けでもないけれどさ、たとえば医者になるためには当然資格が要るし、

そのためには医学部を出なければならないし、まあそこまで行けばガチ

なんだけど、その後はもちろんそれぞれの能力にもよるけれども、まあ

大体の年収や生活レベルの範囲って出てくるじゃない」

「うん」

「それで学歴や資格以外にもよくある適職診断のアンケートにも答えて

もらって、その診断から組織の中でどの程度信頼されるかまでリサーチ

して適性業種を出して、さらには本人の生活習慣はもちろん両親の既往

歴までも答えてもらって本人の寿命までも予測してるんだ。すべて答え

ると100問あるんだけど、もちろん拒否もできるけど。っでさ、寿命

って母親の方の寿命が遺伝するって知ってた?」

「ああ、どこかで聞いたことがある。でもさ病気になってしまえばどう

にもならないだろ」

「そうなんだ。俺の親父はガンで死んでしまったからな、ガン家系なん

だよ」

「それでお前もガンで死ぬって出たのか?」

「ああ、親父と同じ60で」

「信じているのか?」

「っていうかある程度覚悟はしている」

「それで別の人生なんて言い出したのか?」

「まあそうだ」

                           (つづく)