「アキレスと亀 異聞⑦」

2017-11-16 02:28:11 | 短編


         「アキレスと亀 異聞⑦」


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスが

すぐに小川に掛かる橋を渡る亀に追い付くと、亀は猛然と近付いて来る

アキレスに驚いて橋の上から小川に跳び込んだ。アキレスは呆気に取ら

れて亀が跳び込んだ川面を橋の上から見詰めていた。

 アキレスは始めから亀がこの競争をちゃんと理解していたなんて思え

なかった。そもそも亀と人間がいったいどうすればコミュニケーション

をとれるというのか?ただ亀はスタートラインに置かれた時から必死で

ここまで逃げて来ただけじゃなかったのか。そしてアキレスは、

「もう、亀の奴、何もわかってないじゃん」

と言いながら、亀が跳び込んだ川面をめがけて飛び込んだ。しかし川の

中に亀の姿を見付けることはできなかった。つまり、アキレスは亀を追

い越すことはできなかった。

          

                          (おわり)

 

 

 

 


「アキレスと亀 異聞⑥」

2017-11-12 10:40:58 | 短編

       「アキレスと亀 異聞⑥」


 アキレスは亀が来るのを待っていた。待っている間にこんな馬鹿げた

競争を引き受けたことを後悔していた。

「どう考えて見ても亀を追い越せないなんてことはあり得ないじゃない

か。これまで追い越せなかったのは競争以外のことに気を取られすぎた

からだ。もう次は何も考えずにただ走ることだけに集中しよう」

そこへノコノコと亀がやって来た。亀は、

「よぉ若いの、遅くなって申し訳ない」

と謝ったが、アキレスは何も応えなかった。亀は怪訝に思いながらゆっ

くり駈け出した。亀が居なくなってからアキレスもスタートラインに立

ったが、何を勘違いしたのかコースとは反対の方向へ駈け出した。

 しばらくして亀がゴールしてもアキレスは現れなかった。亀は、

「いったい奴は何処へ行ったんだ?」

とその時、アキレスがコースの反対側からゴールを目指して全速力で走

って来た。つまり、アキレスは亀を追い越せなかった。それを遠くから

見ていたガリレオはしばらく考え込んだ後、

「そうか!地球は丸いんだ」

と言って、手を打った。

                         (おわり)


「アキレスと(うさぎと)亀 異聞⑤」

2017-11-12 05:05:09 | 短編


        「アキレスと(うさぎと)亀 異聞⑤」


 アキレスは亀が来るのを待っていた。待っている間にこんな馬鹿げた

競争を引き受けたことを後悔していた。

「どう考えて見ても亀を追い越せないなんてことはあり得ないじゃない

か。亀が来たら競争を断ってすぐに帰ろう」

と思っているところへ、亀がうさぎを連れて現れた。亀は、

「遅くなって申し訳ない。実は、うさぎさんが俺と駆け比べがしたいと

言うので、それじゃあみんなで一緒にやろうってことになって連れて来

たんだが、いいかな?」

アキレスは、

「ええ、いいですよ」

と、考えとは裏腹に快く引き受けてしまった。実はアキレスはうさぎが

大好物だったのだ。

 競争は亀とうさぎが一緒にスタートして、後からアキレスが追い駆け

ることになった。うさぎはスタートするとすぐに亀を引き離して山の頂

上を目指して駆けて行った。亀が見えなくなるとアキレスは駈け出した

。しばらく走ると木の陰でうさぎが寝ていた。アキレスはこの時とばか

りにうさぎを捕まえようとしてゆっくり近付いた。すると、うさぎが気

付いてすぐに逃げ出した。アキレスは競争のことなど忘れてうさぎを追

いかけた。

 亀が山の頂上に到着してもアキレスとうさぎはやってこなかった。つ

まり、アキレスは亀を追い越せなかった。

 それを見ていたイソップはしばらく考え込んでから、

「そうか!」

と言って手を打った。

                         (おわり)


「アキレスと亀 異聞④」

2017-11-08 23:17:02 | 短編

           「アキレスと亀 異聞④」

 

 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いて追い越そうとしたとき、亀が振り返って話しかけ

た。

「よ若いの、もう追い付いたのか。さすが速いね」

アキレスは、

「悪いけど先に行くよ」

すると亀は、

「まあ、そんなにあわてるなって。おれだって始めからおまえに勝てる

なんて思っちゃいないんだから」

その言葉を聞いてアキレスは立ち止まった。すると亀は、

「ところでおまえ、ゼノンのパラドックスって話知ってるか?」

「さあ、知らない」

「なんじゃ、主役のおまえが知らなけりゃあ話しになんねえだろうが」

「えっ、どんな話?」

「まさにこの状況がそうなんだけれど、おまえがおれに追い付くまでに

おれもそれなりに進んだだろう」

「いやあ、亀ってもっとのろいもんだと思ってましたよ」

「お世辞はいいから。つまり、おまえがおれに追い付くまでの間におれ

も更に前に進む」

「ええ」

「よく考えてみろよ、それを繰り返している限りお前はおれを絶対に追

い越せないってことにならないか?」

「そうかっ!」

アキレスは亀の話を聴くと忽ちパラドックスの呪縛に囚われて足が強張

って走れなくなり、亀の後をトボトボとついて行くしかなかった。つま

り、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。


                           (おわり)


「アキレスと亀 異聞③」

2017-11-08 00:25:07 | 短編


         「アキレスと亀 異聞③」

 


 若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスは

すぐに亀に追い付いたが、亀を追い越そうとしてはたと立ち止まった。

目の前の道がふたつに分かれていたからだ。

「えっ!どっち?」

アキレスは亀の足跡をたよりに駆けて来たが、ふたつに分れた道のどち

らがゴールへ続く道なのかわからなかった。そこで、

「もしもし亀さん・・・」

後ろから声をかけられた亀は驚いて振り返った。そして、

「なんだ、ウサギじゃないのか」

「ウサギって何っ?」

「いや何でもない、勘違いした」

「・・・」

「ところで、いったい用は何だ?」

「あっ、そうだ。先に道がふたつに分かれているけど、コースはどっ

ちでしたっけ?」

「何を言ってるんだ、始めにちゃんと説明を聞いたじゃないか」

「そうでしたっけ?」

老いた亀は、

「右だよ、右側」

「ああ、思い出した!そうでしたよね」

アキレスは老獪な亀の言葉をそのまま信じていいものかどうか疑った

「そもそも競争している相手が本当のことを教えるはずがない」

そして、左の道を駆けて行った。

 しばらくして亀がゴールしてもいつまで経ってもアキレスは現れな

かった。つまり、アキレスは亀を追い越すことが出来なかった。

                         (おわり)