「世界限界論」―①

2016-04-13 22:05:25 | 「パラダイムシフト」

         「世界限界論」


 アメリカ大統領選挙の予備選挙が始まって、民主党の本命と目されて

いたヒラリー・クリントンは、自らを「民主社会主義者」と公言して憚

らないバーニー・サンダース上院議員が若者たちの支持を得て躍進した

ことによって、初戦のアイオワ州では僅差で勝利したものの、続くニュ

ーハンプシャー州では敗れて思わぬ苦戦を強いられている。いまや世界

経済はグローバル化によって余白を埋め尽くされフロンティアを失った

近代資本主義は停滞を余儀なくして、ひとりアメリカだけがITイノベ

ーションがもたらした「アメリカン・ドリーム」に酔い痴れているもの

とばかり思っていたが、そもそもIT技術とはこれまで労働が担ってき

た情報伝達手段を省力化させて情報産業から労働者を追い出し、代わっ

てIT利権に与るごく少数の者だけが巨万の富を手にしたが、一方で大

多数は仕事を失い今をどうするかに悩まされて、いつかの夢を追い求め

る余裕などないのかもしれない。それはわが国における経済格差問題と

同じで、否たぶんそれ以上に違いないが、すでに近代文明が産み出す夢

も底を突き「アメリカン・ドリーム」から覚めた若者たちが政治に対し

て「寡なきを患えずして、均しからずを患う」声が上がるのは自由の国

アメリカと雖も「世界限界論」の下では至極当然のことだと思う。否、

それどころか「世界限界論」、それは近代科学文明のグローバル化がも

たらす人口爆発、それに伴って生じる資源枯渇や環境破壊などの限界が

グローバル化して、まず近代科学文明の総本山であるアメリカこそが最

大の影響を被るのは明白である。70億の人間が近代的な生活を望むには

地球はあまりにも小さすぎるか、或いは我々が大き過ぎるか多過ぎるの

だ。つまり「世界限界論」とは地球の限界がもたらす「成長の限界」で

あり、経済成長の限界とは資本主義経済の限界であり、それは取りも直

さず「アメリカン・ドリームの終焉」に他ならない。

                          (つづく)


「世界限界論」―②

2016-04-13 22:04:16 | 「パラダイムシフト」

 

       「世界限界論」―②


 次期アメリカ大統領候補の有力者たちの顔ぶれを見ていると、今のア

メリカが行き詰った状況に置かれていることを窺い知ることができる。

順当なら民主党のヒラリー・クリントンが優勢のまま決まりのはずだが

、もちろん彼女が依然最有力候補であることに間違いはないが、ところ

が彼女に対抗する候補者といえば、上述のバーニー・サンダース上院議

員や、共和党では実業家で人種差別的な暴言を繰り返す国家主義者ドナ

ルド・トランプ氏が支持を集めている。過去のアメリカ大統領選挙なら

多分どちらも早々と撤退せざるを得なかったはずだが、どうした訳か支

持を増している。その背景には「チェンジ!」と訴えながら何も変えら

れなかったオバマ政権に対する国民の不満が高まっているのかもしれな

いが、私は決してオバマ大統領が無策だったとは思っていない。と言う

のも「世界限界論」の下では流動性が失われて経済成長が止まり、とこ

ろが政治がやれることは知れていて精々現状を維持させることくらいが

限界で、どこかの国のように金融政策によって実体経済を動かそうすれ

ば、何れそのツケは国民が負わされることになるだろう。

 先ごろ日銀はマイナス金利の導入を決めたが、すでに複数の国家で導

入されているが、それはまさに資本主義経済の終焉の始まりに他ならな

い。かつて、どこか北欧の高福祉国家を取り上げたテレビ番組で、当局

が移民者に生活費を渡す際に「貯蓄せずに全部使い切って下さい」と断

っていたのを観て驚いたが、そもそも通貨は流通させてこその「通貨」

であって、流通しない通貨は何の価値も生まない。資本は生産に投資さ

れて余剰価値を生み、もちろん生まない場合だってあるが、しかし投資

されない限り価値を増大させることはできない。グローバル経済の下で

安価な労働コストの国に生産を奪われた資本は金融市場に投機され価値

を生まないマネーゲームで貨幣価値を増やそうとした。マイナス金利と

は価値を生まないマネーゲームから資本を締め出して実体経済へ向かわ

せるための手段であるが、そもそも生産によって収益が見込めない実体

経済に戻っても経済成長は見込めない。資本は投資先を求めて株式市場

へ流れるが実体経済からかけ離れた投資は再びバブル経済をもたらす。

多分それが巨額の負債を抱える政府の狙いだと思うが、しかし「成長の

限界」を迎えた世界経済の下でバブル崩壊後の日本経済を再生させるこ

とはまず不可能に違いない。そして再びデフレスパイラルの轍に舞い戻

るのか、或はハイパーインフレに見舞われるのか、それはまったく正反対

と思われるかもしれないが、例えば走行中の自動車が障害を避けるため

に急ブレーキを踏んで避けるのか、或いはアクセルを踏み込んで走り抜け

て避けるのか、または急ハンドルを右に切って避けるのか左に切るのか

程度の差に過ぎない。どちらにしろ経済危機は避けられない。

                        (つづく)

 

 


 


「世界限界論」―③

2016-04-13 22:01:28 | 「パラダイムシフト」

          「世界限界論」―③


 アメリカ大統領選挙のことから日本経済へと話が逸れてしまったが、

そもそもアメリカ経済が行き詰って日本経済がその影響を免れることな

どないはずで、先ごろアメリカでは奴隷の子孫でも大統領になれると発

言して非難された議員は、それは参議院憲法審査会の場で日本がアメリ

カの51番目の州になった場合に如何なる憲法上の問題が生じるのかを参

考人に質問した時の発言だが、それにしても日本がアメリカに併合され

た場合を国会議員が口にしたことに驚かされたが、つまりそれほどまで

に日本は政治も経済もアメリカに依存していて、アメリカ経済を脇に置

いて日本経済やさらには世界経済を語ったところで意味がない。さて、

その資本主義経済の総本山アメリカでは格差社会が極限まで達し、「ア

メリカン・ドリーム」から目が覚めた若者たちは「均しからずを患」い

て民主社会主義者バーニー・サンダースを支持している。グローバル経

済によって近代文明が世界を覆い尽くし「成長の限界」に達した世界経

済の中で、その優位性が失われ始めたアメリカは果たして自由主義経済

を改めるのだろうか。「世界限界論」とはグローバル経済がもたらした

近代文明の限界であり、ゼロサム社会の下で更なる豊かさを求める者は

他者と奪い合うか、そうでなければ等しく分け合うしかない。「世界限

界論」の下で他者と争って「成長の余地」を奪い合うことが認められな

いとすれば、つまり争いは避けなければならないとすれば、社会秩序を

維持するためには民主的な社会主義社会へ向かわざるを得ないと思う。

そして上述の国会議員の言を借りて言えば、アメリカは「奴隷が大統領に

なれるほどのダイナミックな変革をする国」であるなら、「世界限界論」の

下で宗旨替えをして、資本主義経済をあさっり棄てて社会主義国家へと

変貌することだってありうるのかもしれない。

                       (おわり)