「あほリズム」
(374)
猫を見て思った。彼らにいくらことばを教えても決して
「吾輩は猫である」などと語ることはない。ねこの限界は
「猫である」ことである。だとすれば人間の限界も「人間
である」ことである。
存在者の限界は存在者としてしか存在しえないことにある。
つまり、
「肉は悲し、なべての書は読まれたり」 マラルメ
「あほリズム」
(374)
猫を見て思った。彼らにいくらことばを教えても決して
「吾輩は猫である」などと語ることはない。ねこの限界は
「猫である」ことである。だとすれば人間の限界も「人間
である」ことである。
存在者の限界は存在者としてしか存在しえないことにある。
つまり、
「肉は悲し、なべての書は読まれたり」 マラルメ
「あほリズム」
(372)
自分は如何に生きるべきかを突き詰めれば、個人主義に到る。
では、成長の限界に達した世界経済の下で、社会とは如何にある
べきかを突き詰めれば、社会主義に到らざるを得ないのではない
か?
(373)
情報化社会の下で、すでに些細な個人の自由でさえも非難に曝さ
れ監視社会が拡がろうとしていて、ぼんやりとした不安を感じる。
私は他人に石を投げられるほど正しくはないから。
「あほリズム」
(371)
生きることの意味と価値について問いかけるようになると、
我々は狂ってしまう。なにしろ意味も価値も客観的に実在す
るものではないのだから。
フロイト
「アキレスと亀 異聞⑦」
若いアキレスは先にスタートした老いた亀を追い駆けた。アキレスが
すぐに小川に掛かる橋を渡る亀に追い付くと、亀は猛然と近付いて来る
アキレスに驚いて橋の上から小川に跳び込んだ。アキレスは呆気に取ら
れて亀が跳び込んだ川面を橋の上から見詰めていた。
アキレスは始めから亀がこの競争をちゃんと理解していたなんて思え
なかった。そもそも亀と人間がいったいどうすればコミュニケーション
をとれるというのか?ただ亀はスタートラインに置かれた時から必死で
ここまで逃げて来ただけじゃなかったのか。そしてアキレスは、
「もう、亀の奴、何もわかってないじゃん」
と言いながら、亀が跳び込んだ川面をめがけて飛び込んだ。しかし川の
中に亀の姿を見付けることはできなかった。つまり、アキレスは亀を追
い越すことはできなかった。
(おわり)
「アキレスと亀 異聞⑥」
アキレスは亀が来るのを待っていた。待っている間にこんな馬鹿げた
競争を引き受けたことを後悔していた。
「どう考えて見ても亀を追い越せないなんてことはあり得ないじゃない
か。これまで追い越せなかったのは競争以外のことに気を取られすぎた
からだ。もう次は何も考えずにただ走ることだけに集中しよう」
そこへノコノコと亀がやって来た。亀は、
「よぉ若いの、遅くなって申し訳ない」
と謝ったが、アキレスは何も応えなかった。亀は怪訝に思いながらゆっ
くり駈け出した。亀が居なくなってからアキレスもスタートラインに立
ったが、何を勘違いしたのかコースとは反対の方向へ駈け出した。
しばらくして亀がゴールしてもアキレスは現れなかった。亀は、
「いったい奴は何処へ行ったんだ?」
とその時、アキレスがコースの反対側からゴールを目指して全速力で走
って来た。つまり、アキレスは亀を追い越せなかった。それを遠くから
見ていたガリレオはしばらく考え込んだ後、
「そうか!地球は丸いんだ」
と言って、手を打った。
(おわり)