「形骸」

2008-11-23 17:45:29 | 赤裸の心
「形骸」


 日本の製造技術の精度の高さは、中流階級が大半をしめる格差

の無い社会で、終身雇用によって失業の不安を持たずに、作業者

が集中して経験を積むことで品質の高さを生んだ。ところが、グ

ローバル化による価格競争の激化によって、人件費の削減を余儀

なくされた企業は、低賃金の短期契約の雇用を増やした。その結

果、企業は空前の利益を上げることが出来たが、経験の無い派遣

従業員などの作業者は、雇用への不安を抱えて仕事の意欲も低下

して、日本が誇る品質や精度が怪しくなって来た。誇りを失った

仕事は、昨今の品質偽装や不良品に見られるように、日本製の品

質を低下させている。つまり、人件費の削減による人材の低下は

品質の低下に及んでいる。いずれ品質でも中国製に追い抜かれる

日が来るだろう。私はマスコミ等で、「日本の優れた」技術は、

と枕詞のように語られる度に、優れた技術は誰が担っているのか

聞きたくなる。一流企業の会社なら優れた技術が守られていると

思っているのか。残念ながらその下請けの会社では、昨日までパ

チンコばかりやってなけなしの金を摩ってしまい、生活に困って

派遣会社に縋る者が、仕方なく「日本の優れた」技術を持った職

場に送られてくるのだ。不安定な雇用からは、熟練した技術者が

去り技術が失われていく。マニュアルだけに頼った俄か知識で人

の命を預かる工業製品の部品が造られているのだ。いずれ、「日

本の優れた」技術が如何に形骸化した過去のものであるかが解

る日がくるだろう。
     

                         (おわり)
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