「二元論」(16)

2021-08-15 11:48:32 | 「二元論」

   「二元論」


    (16)


 初期のハイデガーが「現存在が存在を規定する」、つまり「人間

は世界を変えてもいい」と考えたことと、転回(ケ―レ)を余儀なく

されてからはそれとは正反対に「存在が現存在を規定する」、つま

り「人間は世界の一部である」へと思想転換したことの形而上学上

の明確な根拠は存在しない。人間が世界を了解する視点に立って、

自分の思い通りに世界を作り変えてもいいのか、それとも自分は世

界の中の一部、つまり〈世界=内=存在〉として世界と共に在るべ

きなのか、の認識の選択は、世界がグローバル化(globe-al:金魚鉢‐

化)によって限界に達した近代社会において経済成長か、それとも環

境問題かへと転化される。つまり、経済成長を求めれば環境破壊が

進み、環境破壊を意識すれば経済成長が失われる。そして、そのど

ちらの選択にも明確な根拠が存在しない、とすれば、いわゆる環境

問題はハイデガーが転回(ケ―レ)を余儀なくされた、まさに根拠の

ない形而上学的二元論の延長線上にある。つまり、成長か環境かの

問題は、存在(世界)か現存在(人間)かの二元論に端を発する。

                        (つづく)