クレジットを見て驚いたのだが、アレンジはボサ・ノヴァの巨匠オスカー・カストロ・ネビスだ。したがって音楽的にはほぽ全編を通じて今の時代には格調高さすら漂う正調ボサ・ノヴァである。ただし、この時期の大貫はかつての情緒的ヨーロッパ風なトーンはもうあまりなくても、非常に透明度を高めた、ある意味枯れて静的な世界になっているので、リラックスして涼しげなボサ・ノヴァを多少下世話に楽しみたいという私には、ちと抽象度の高すきる感もなくはない。
曲としては、イタリアのカンツォーネ風なメロディーをボサ・ノヴァのリズムにのせて上品に歌う「美しい人よ」とジョビンの「コルコバド」を思わせる沈んだトーンとオガーマンを思わせるストリングスのアレンジが、ひんやりとしたロマンティシズムを感じさせる「永遠の夏」が良かったな。7曲目の「JAPAO」はジルベルト・ジルとジョアン・ドナートの曲で、大貫が日本語に翻訳して歌っているが、外国人にありがちな異国に対する勘違いエキゾシズムを逆に楽しんでいるようで、これも楽しい曲である。ちなみにラストの「SAMBA DO MAR」はインストゥルメンタルだ。
という訳で、実に久しぶりに大貫妙子の作品を買ってきたんだけど、先に書いた通り、私にはこの浮世離れしたというか、ある種透徹したムードはちと「深すぎて」敷居が高いようだ。それにしても10年前の作品でさえこれほどだとすると、現在の彼女の音楽はいったどんな風になっているのだろうか?。