アルバムはスローバラードの「オールウェイズ」からスタート。おそらく原曲はかなり素朴な歌と思われるけれど、それをこうしたしっとりクリーミー、そしてそこはかとない陶酔を感じさせる絶妙な演奏に仕立て上げ直すあたり、近年のチャーラップの円熟を感じさせる。以前にも書いたけれど、チャーラップといえばまずは非常にスポーティーで都会的スウィング感みたいなところに魅力を感じていたのだけれど、最近はすっかりこうしたバラード系のスタティックな演奏により多くの魅力を感じるのは、当方の嗜好の変化もあるだろうが、やはり彼の音楽がより深化したということもあるだろうと思う。続く「チーク・トゥ・チーク」は、従来のスポーティーなスウィング感とピーターソン的な語り口で演奏した軽快な作品で、これもいつも通りのペースなのだが、やはり以前に比べぐっと落ち着きと風格のようなものが出てきた感じがする。「アイ・ゴット・ザ・サン・イン・ザ・モーニング」は、かつての「夜のブルース」を思わせるソフィスティケーションされたブルース演奏だ。
あまりにも有名な「ハウ・ディープ・イズ・ジ・オーシャン」は、ちょっとポリリズム風なアレンジをイントロに使ったかなりテクニカルな演奏だ。この曲はいろいろなジャズ・ミュージシャンに取り上げられているけれど、とにかくこね回したり、ひねったアレンジにする場合が多いようなのだが、この曲もテーマが後半になるまで出てこない。この曲、どこかジャズ・ミュージシャンにとって、そそるトリガーを内包しているのだろう。「ホワットル・アイ・ドゥ」「イズンド・ジス・ア・ラブリー・デイ」は、どちらも実に素朴で愛らしいメロディーを持った曲で、こうしたシンプルな演奏だとアーヴィング・バーリンという人の個性が分かるような気がする。「ザ・ソング・イズ・エンディッド」は7分近い長目の演奏で、トリオ全体が多彩な表情を見せるという点ではアルバム中のハイライトになっている演奏かもしれない。ラストの「ロシアン・ララバイ」はピアノ・ソロだ。
という訳で、本作は今やワシントン組と組んだレギュラー・トリオに迫る一体感を獲得し、すっかり安定期に入ったニューヨーク・トリオの手堅い作品というところだろう。ジャズの場合、こうなるといずれマンネリという陥穽も待ちかまえているとは思うが、チャーラップの場合、最近の活動は「作曲家シリーズ」をライフワークとし、スタンダードの解釈の学徒として自らを律しているようだから、レギュラー・トリオと併せ、あと数作はこの調子でカタログを拡張しつづけていいように思う。本作が出たのが一昨年だから、そろそろこのトリオの新作も控えているだろう。次は誰を取り上げるのだろう。