(童話)万華響の日々

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映画「大鹿村騒動記」 その印象

2011-07-23 16:26:58 | 映画の印象

映画「大鹿村騒動記」
評価度:★★★★

 本作、奇しくも主演の 原田芳雄さんの遺作となってしまった。
 
 長野県の小さな村、大鹿村はリニア新幹線の是非論と今年もやってき

た伝統の歌舞伎公演準備で燃えていた。そんな中、歌舞伎の練習に余

念がない鹿料理飲食店のおやじ風祭善は妻の貴子に幼なじみの治と

駆け落ちされて18年も一人でやってきたが、今日は初めてのアルバイト

を雇い入れたばかりであった。

 そんな折り、治は認知症になった貴子に困り果て善に彼女を返すとい

って、帰ってきたのだ。善は戸惑ったが、治と貴子を意外なほどすんなり

と受け入れたように見えた。しかし、正直なところ、善の心は揺れ動く。

貴子の認知症はひどく、万引きしても分からないし、何でも口にしたり、

善と治の違いも判らない。善もほとほと持て余していた。そんなとき、強

い台風が村を襲う。貴子は嵐の中でふと記憶を取り戻し自己嫌悪に陥り

自殺しようと家出をする。

 善たちは総出で彼女の行方を探し回り、やっと見つける。濡れた洋服

を浴衣に着替えさせたところ、ふと貴子はかつて演じた歌舞伎の台詞を

口にした。それを聞いた善の仲間は貴子に歌舞伎に出演させてみようと

提案した。もしかしたら役を演じた後、正常だった貴子に戻るのではない

かと。

 この後の歌舞伎の場面が素晴らしい。村人たちが舞台の前庭を埋め

尽くし、善が景清を演ずる。

 ここで演じられる歌舞伎”「六千両後日文章」重忠館の段”は大鹿村で

代々伝承されてきたもので、平成8年には国選択無形民族文化財に指

定されたそうである。映画でも紹介されてるが、回り舞台付きの本格的

な舞台がある。国内のみならず海外公演も行われているそうである。歌

舞伎座、国立劇場や新橋演舞場で公演されている本場の歌舞伎以外

にもこんな独自の民族芸能が絶やされずに小さな村で維持伝承されて

いることは素晴らしいことである。本作がこのような村歌舞伎を紹介した

ことだけでも賞賛に値する。

 さて、物語に戻って、なぜ貴子は歌舞伎上演中に景清役の善に”赦さ

なくてもいいよ”と囁いたのであろうか。景清の善は感無量の気持ちに浸

り、両目をくり貫く段を演ずる。善と貴子の二人の夫婦関係は歌舞伎の

物語と絡み合い解け合うのである。ふたりは、公演が引けた後、昔の仲

が良かった夫婦の関係に戻るかのようであった。だが、翌朝悲しいか

な、貴子の症状は元に戻っていた。

 歌舞伎を演ずる間だけ、二人はかつての正常な夫婦関係に戻るかの

ようである。再び、認知症の妻の介護に明け暮れる長い日々が始まる。

だが、歌舞伎公演の日が近づくころ、妻はまた昔の妻に戻ってくれる。

善はそう信じてまたいつもの暮らしに耐えるのであろう。認知症を患う家

族を持つ人たちへのメッセージが伝えられているように思える。

 この善を演じた原田芳雄さんは7月19日に亡くなられました。感動的

な素晴らしい映画をありがとうございました。なお、原田さんの追悼番組

で、原田さんが言われていたという”血縁関係だけが家族ではない、い

ろんな人が家族だ”と、分け隔てなく親しくつきあっておられたという。

全く同感であり、お教えをいただいたと感謝します。

製作国 日本 2011年
監督: 阪本順治 
企画: 阪本順治 
原案: 延江浩 
脚本: 荒井晴彦 
 阪本順治 
主題歌: 忌野清志郎   『太陽の当たる場所』
出演: 原田芳雄 
 大楠道代 
 岸部一徳 
 松たか子 
 佐藤浩市 
 冨浦智嗣 
 瑛太 
 石橋蓮司 
 小野武彦 
 小倉一郎 
 でんでん 
 加藤虎ノ介 
 三國連太郎 
 劇場:錦糸町
映像:Allcinemaより


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
役者魂 (はっぱ)
2011-07-25 17:32:59
原田芳雄さん、まだお若く、役者としてなさりたい仕事もおありだったと思います。
骨太の、他にはない存在感が、おしまれます。
最期の映画は、ご自分の命をかけて作られた集大成。舞台挨拶での痩せ衰えたお姿には、亡き母や、今の父の姿と重なり、涙が出ました。ただ、言葉は発せられませんでしたが、瞳には、灯火がともっている感じすら受けました。映画人として、役者魂を貫かれた一生が、かっこいいです。
映画の内容を、わさびさんに紹介していただいて、私も観に出掛けてみたくなりました。
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一期一会 (わさび)
2011-07-26 22:20:48
はっぱさん
いい俳優さんだったですねえ、原田芳雄さん
亡くなって、余計にその輝きに気が付きます
一期一会とは、後で悔やまないための人生訓でしょうか
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Unknown (あんず)
2011-07-27 21:10:50
原田芳雄さん、人々に惜しまれて逝ってしまいましたね・・・
豪快にも見え繊細で優しさも表現できる俳優さんでした
昨年NHKで「日の魚」のドラマで小説家の役を演じていたのが印象的です
太く短く生きた人生でしょうか、長さではない、いかに生きるかですね・・・
もちろん健康で長寿がいちばんです
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一日一日 (わさび)
2011-07-29 14:44:18
あんずさん
どちらにせよ、後悔のない生き方をしたいですね
まずは、一日一日を大切にというところでしょうか
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