旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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めざせ長寿・健康かるた 終章

2017-07-01 00:10:00 | ノンジャンル
 嫌いではなく。‟恐いっ”のである。
 もちろん鎖につながれている近所の犬でさえ、いつもならボクの足音に返応して唸ったり吠えたりしてするのだが、このところ小屋の前に半身を出して寝そべり、ウンともスンとも言わなくなった。それどころか、片目をあけて一瞬、ボクを見るだけで完全無視の態。そうなると「ワンッ」のひと声を覚悟していただけに警戒心をはぐらかされる。それほど真夏日である。

 高橋和男編纂「めざせ長寿・健康かるた」シリーズも終章。
 「あさきゆめみし」の「あ」からはじめよう。例によって「*印」は、ボクの蛇足。

 ◇(あ)甘いもの 塩辛いものは ほどほどに。

 ◇(さ)寒い日は 暖めてから トイレとお風呂。
  *沖縄では、便器を暖めるほどの寒さはないが、それでも高齢者は夏でも身体を冷やすべきではないという。古諺の「年寄りの冷や水」は、無理な行為戒めながらも、内臓の平穏保持を促しているのではないか。

 ◇(き)気にするな 耳が遠いは 好都合。

 ◇(ゆ)行き先を 家族に伝えて 外出しよう。
  *ラジオの生番組に「尋ね人」が多くなった気がする。高齢化社会のひとつの現象か・・・。

 ◇(め)メモをして 貼れば防げる 物忘れ。
  *思わず苦笑する。メモをどこに貼ったか忘れることもあるし、何をメモしたか覚えていたらいいが、貼ったメモを見て、何のためにメモしたかを忘れたらどうしよう。

 ◇(み)見栄はらず 早めに 転ばぬ先の杖。
  *敬愛する先輩のK氏は難聴気味。家族の奨める補聴器着用を拒否している。視力低下には眼鏡。歯が少なくなったら入歯。おしゃれ感覚で補聴器もよいのではないかと奨めるらしいが、K氏はまだ見栄を捨て切れずにいるらしい。それもまたよし。

 ◇(し)シミ 白髪 受け入れましょう あるがまま。

 ◇(ゑ)恵比須顔 爺さん婆さん 福を呼ぶ。
  *沖縄(もろみざと)の一角にスナック、小料理店、おでん屋が軒を連ねる飲食街がある。自治会、飲食店組合としては「末永く繁華するように」という思い入れがあって「百軒通り」と名付けたのだが、年期が入るにつれ、かつての美人ママも70歳前後になり、天下を語っていた(若者たち)も、年金生活をするようになっている。そのせいか「百軒通り」の名称は「年金通り」の方が文字通り(通り)がよくなっている。
 御常連たちは連夜、若かりしころの自慢ばなし、武勇伝などを披露し、懐かしのメロディーを有名歌手になり代わりマイクを握り皆々、恵比須顔である。60歳にとどかない現役の市町村長も校長も社長も、年金通りの店に入ると後輩扱いで説教を喰らうシーンも見られる。温故知新を身をもって知る「年金通り」の店々なのだ。勇気と情愛を心得た現役者は「話半分」を楽しんでいるようだ。看板近くになると恵比須顔たちは、申し合わせたように席を立ち、その折に発する再開の弁がこうだ。
 「また次に!」
 この「次に」は年金授与日かその翌日を意味するそうな。

 ◇(ひ)ひと安心 手すりをつけた家の中。
 
 ◇(も)物忘れしたしたから何だ 気にするな。
  *風俗史や芸能史の表裏を教えてくださった故崎間麗進大兄。ある事項をド忘れなさることがあった。「このことでしょうか?」と伺うと「そうそう。まあ、ワシが忘れても教えたお前が覚えていたらそれでいい」が返事だった。

 ◇(せ)世話好きで マメなお人は ボケません。

 ◇(す)酢の物や 香辛料で食すすむ。

 ◇(京)今日もまた いい日だったと 床につく。

 以上、高橋和男編纂「めざせ長寿・健康かるた」。
 諺、名言は数にあるがその通りにいかないのも人生。読者諸賢で、自分のためのみの「いろは人生訓」を詠んでみては如何。人生は存外煩わしい。ならば、その煩わしさを楽しみに替えてみるのも人生なのではなかろうか。
 ウフムヌ言い(大言壮語)に過ぎた。乞う容赦。

 おや、もうこんな時間か。暑さにかまけて完全休養を決め込んだことだが、そうしてはいられまい。陽もおさまったようだし、散歩に出ようか。件の犬も昼寝から覚めたであろう。「ワンッ」とひと声、彼の挨拶も聞かなければなるまい。「めざせ長寿・健康かるた」のせいか、散歩着に着替えながら後期高齢者の仲間入りをしているボクの口をついて出たのは、忘れて久しかった都々逸の文句。
 ‟七つ八つからいろは覚え イの字忘れてイロばかり”