旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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ハブの話

2012-06-10 00:15:00 | ノンジャンル
 青い海青い空。泡盛。島うた。エイサー。紅型<びんがた>。空手。赤ばなぁ<ハイビスカスの一種>。基地。最近はゴーヤーおバァ<婆>が仲間入り。そして、ハブは常連としてランクインする。
 これらは、本土の人が「オキナワ」から連想するという言葉たちである。
 今週は「ハブ」が主役。
 ハブなる言葉は、沖縄語ではない。
 はぶ=〔波布〕クサリヘビ科の毒ヘビの一種。全長約2m。体は黄褐色の地に鎖状の暗褐色の斑紋。頭部は三角形で毒線が発達。動きがすばやく攻撃的。奄美諸島・沖縄諸島などに分布。
 辞書にそうある立派な日本語である。

 沖縄の陸上には、22種のヘビが生息。そのうち、毒ヘビは8種。危険なのは、ハブ、サキシマハブ、ヒメハブ、タイワンハブの4種に限られている。
 ハブは、琉球列島が大陸と陸続きだった数百年前にやってきたといわれる。その頃は、陸上海上ともに流動していて、海水面の上昇と下降をくりかえして島々ができた。そのため、水没した島ではハブは絶滅。宮古島や久高島のようにハブがいない島もあるということだ。また、陸海の変動とは関係なく、人間によって、中国大陸や台湾から持ち込まれ、沖縄本島北部に定着したタイワンハブ。南部に定着したサキシマハブの例もある。
 毒を持ってはいても、危険性が低いのはガラスヒバァ。黒い地に白い横ジマの斑点があり、蛙を常食としているため、水辺をテリトリーとしている。体長110cm。いま一種は、方言名ナナフサー<七ふし>と呼ばれるハイ。ハイは、体長60cmほどで、オレンジ色と黒の縦ジマと横ジマの見た目きれいなヘビである。
 一方、毒は持たないものの代表はアカマタ。赤と黒のシマ模様。己が爬虫類でありながら、トカゲやヘビ、そして、ハブまで食する。170cmにもなる。リュウキュウアオヘビは、別名アオダイショウ。背中は緑色、90cmほどでネズミを食べる。方言名は、オーナジャーと言い、鰻<ンナジ>に例えたのであろう「大鰻=オオンナジャー」と名付けられている。
 他に、15cmほどで全身光沢のある灰色をし、土の中にいてミミズと見紛うブラーミニメクラヘビ。背中は褐色、腹は黄色。50cm。落ち葉の下などにいるアマミタカチホヘビ。台湾から持ち込まれた大型ヘビで、体長3mにもなり、沖縄本島中部に定着しているタイワンスジオがいる。


 琉球列島のハブは冬眠しない。年中、活動している。
 ハブに打たれても「小さいハブだから大丈夫」とするのは間違いで、ハブは生まれたときから、毒を保有しているし、牙を抜いたハブだからと安心するのも早計。ハブの牙は、年に数回生えかわるということだ。
 ハブ話は私が担当するRBCiラジオ「民謡で今日拝なびら=逢ちゃりば兄弟・金曜日」の放送で、沖縄県衛生環境研究所ハブ研究室寺田考紀氏に教えていただいた学術データである。ハブ談義の足しにしていただきたい。
       

 ところで。
 俗語に「ハブ捕やぁ=ハブ とぅやぁ」がある。
 直訳すると「ハブを捕る人。男」のこと。沖縄にも奄美大島にも、ハブ捕り名人はいるし、それを副業としている人もいる。しかし、俗語が意味するのは、やたら、女性にチョッカイを出す男。昔風に言えば、女を落とすことに長けた男のことである。とは言っても、女性をハブと同列に置いたのでは決してないことを強調しておきたい。色事は、家庭争議はじめ、義理も人情も踏みにじる場合がある。道義、道徳に反し、ことによっては、血の雨を降らす危険性をはらんでいる。その危険を「ハブ毒」としたのである。
 私の周辺にも「ハブ捕やぁ」がいるが、特別、色男でもないのに、女性に近づき、親しくなる術を心得ている。ハブ毒に臆さないから「立派!」と言うべきか。
 「オレもハブ捕やぁになろう!」
 今、そう一念発起した貴君。止めはしないが、ハブや女性の研究をよくすることから始めた方がよかろう。沖縄の諺にもある。
 「女ぬ果てぃれぇ 蛇ないん=うぃなぐぬ はてぃれぇ ジャーないん
 女性が怒り、身を捨てて行動するときは、蛇にも鬼にもなるとしている。さあ、どうする。