旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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芝居からことば塾へ

2010-04-22 00:20:00 | ノンジャンル
 消防隊司令・美容師・教員・団体役員・看護婦・ラジオパーソナリティー・同レポーター・元教員・元警察官・元公務員・主婦、そして大和人。中には自治体元教育長と異職業経験者25名が、毎週木曜日の夜、沖縄市に集まる。この集団の名称は「北村三郎・芝居塾ばん」。
 塾長北村三郎は、芸歴54年の沖縄芝居の現役の役者である。ちなみに「ばん」とは、芝居の開幕閉幕を告げる拍子木のこと。
 平成12年4月。沖縄芝居の若手養成と研修を目論み[芝居塾]を立上げたことだが、公募してみると、応じてきたのは芝居、舞台とはおよそ縁遠い面々だった。もちろん、若手役者、舞踊家、歌者もいるにはいた。しかし、大方の希望するところは、
 「役者になるつもりは毛頭ない。芸能は嫌いでは決してなく、むしろ好き。その芸能を通して、沖縄の庶民文化を学びたい。また、日増しに衰退しつつある〈沖縄語・方言〉を身をもって学習、復習したい」。このことである。
 しからばと、沖縄芝居の脚本や琉球詠歌、さらには諸々の故事来歴・諺・歴史・語源等々をテキストに、大げさに言えば自由な沖縄学学習会が出来上がった。沖縄方言で書かれた脚本や琉歌は、多かれ少なかれ皆、日常的に親しんでいて、方言学習のテキストとしては最適と言える。特に脚本には登場人物がそれぞれの人生を背負って描かれ生きている。時代もの現代もの問わず抜粋して、塾生ひとりひとりに配役して実技を試しみた。すると、どうだろう。人間、誰もが持っている変身願望を喚起した。「生身の自分が王府時代にタイムスリップする」「老人、青年、美男美女、士族、百姓、強者弱者、役人、泥棒・・・さまざまな生き方を通して自分を見つめられる」エトセトラ・・・。
塾生のこの意識の変化をいち早く察知した塾長北村三郎は、否応を問わず研修発表会を企画。翌年3月には、半年の稽古を経てオリジナルの芝居1本を軸に琉舞、日舞、方言トーク、さらにはこれまた民謡風の「ばんの歌」まで作ってプログラムとし、第1回発表会を開催するに至ったのである。そしてそれは「ばん塾」の恒例行事になり、開設10年目を迎えた今年も、4月29日〈木曜日・昭和の日〉午後7時半、沖縄市民小劇場「あしびなぁ」の舞台に面々が立ち「第9回公演」の幕を開ける。


      ◇プログラム

 ①オープニング・合唱「一、二、三、四!ばんばんばん!」
  上原直彦の作詞に、歌者前川守賢が曲をつけた塾生の愛唱歌のひとつ。前川守賢はこれを今春リリースしたCD「これからも かなさんどう」に、自ら歌って収めている。
 ②喜歌劇「戻りかご」*出演=〈客員・芝居集団石なぐの会高宮城実人・知名剛史・当銘由亮〉
 昭和10年〈1935〉ごろ、玉城盛義が創作。当時、那覇の花街チージで流行っていた「サイレン節」を主に振り付けた小舞踊劇。
 ③舞踊「浜千鳥=一名チジュヤー」*出演〈客員。舞芸・さらの会座喜味米子〉
 明治20年〈1887〉ごろ、旅情を歌い上げた流行り歌に玉城盛重が振り付けた。
 ④琉球講談「寅年・虎物語」*口演=北村三郎・〈客員・劇団真永座座長仲嶺真永〉
 作上原直彦。
 ⑤歌三線*独唱=琉球古典音楽保存会師範・嘉陽 正。
 敢えて民謡のあやぐ、しょんがね、やっちゃー小など。
 ⑥時代劇「遊び村栄ぇ=あしび むらじゃけぇ」。作上原直彦。演出北村三郎。出演=塾生総掛かり。
 チラシの惹句に“名優・迷優!舞台は狭し!沖縄力全開の花舞台”“力不足はあなたにすがる!うんじゅぬ情どぅ頼まりる”“お待たせしてもしなくても!今年も熱演!素人芝居”とある。

 開設10年目の今年、芝居塾「ばん」は名称をことば塾「ばん」に改めた。その理由。
 「素人は所詮素人。年に一度舞台に立つ程度で“芝居”を標榜しては、沖縄芝居を完成させた先人、それを今に継承して演じている現役の役者さんたちに対して、失礼この上もない。われわれの舞台はあくまでも、ことばの勉強会の延長線上にあるもの。10年の節目に“ことば塾”に改名したい」。
 これは塾生の総意である。謙虚な姿勢とは言えないだろうか。


 余談的自己満足。
 これまでの9年間、盆と正月など特別の行事の日以外は、一度も休塾することなく集合してきたことが認知されたのか映画「風の舞」のエキストラ。TBSテレビ。その他大勢組ながら、NHKの「沖縄の歌と踊り」。国立劇場企画公演にも出演。果ては劇団大伸座〈代表大宜見静子〉とも共演している。素人の向こう見ずと言えるが「ばん」の行動力は、県下各地域に刺激を与えたかして村民劇、市民劇活動を促す遠因になっているように思える。
 第9回ことば塾「ばん」公演。制作=キャンパスレコード・備瀬善勝。
 “恐るさ物ぬ見欲さ物”。恐い物見たさの遊びごころをもってご覧あれ。
 入場料=2000円。問い合わせはキャンパスレコード。
TEL:098-932-3801