旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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さんしんの日・あとさき記

2008-03-06 14:25:38 | ノンジャンル
★連載NO.330

 2008年3月4日。
 RBCiラジオ企画・第16回「ゆかる日まさる日さんしんの日」は、沖縄中のさんしんが春を呼ぶかのように祝儀歌「かじゃでぃ風」を一斉に奏で、9時間15分の放送を終えた。
 3部構成。2度の入れ替え制にもかかわらず、主会場・読谷村文化センター鳳ホールは超満員。フランス、北京、ブラジル、ハワイをはじめ、神奈川県川崎、愛知県名古屋、北海道札幌からの中継を入れ込んで[オキナワンスピリッツ]が、ひとつになった1日であった。県内各地でも、この企画に相呼応して独自の演奏会を開くのは、もう恒例になっている。また、主会場の客席も、琉球音楽に抱くそれぞれの[想い]が熱気をもって綾なした。会場に持参したのは、さんしんだけではない。
 うるま市石川の石川実さんは、胡弓を持って参加。舞台上の奏者のそれに合わせて弾き、楽しんでいた。
 胡弓の沖縄名称は「クーチョー」。
 さんしんと殆ど同時に中国から伝来したとされる。長さ約70㎝。棹はさんしんと同じく黒檀〈黒木。クルチ〉。共鳴板の胴部分は椰子の実などをくり抜いた直径11、2㎝の半球形の丸胴。これに蛇皮を張る。弦は3本。弓には馬の尾毛をつける。演奏する場合は、棹を垂直に立て二胡やチェロのように弓を駆使して音を出す。本来、弦は3本だったが近年、音域を広くするため、名工又吉真栄氏によって4弦胡弓が考案されて、広く普及していて、琉球宮廷音楽には欠かせない楽器である。
 音色は[むせび泣くような]と一般には表されるが、透き通ったそれは、意外に遠くまで通る。距離をおいて、風に乗って聞こえてくるクーチョーの音は何とも情緒的で心洗われる。
 合奏の組合わせは、さんしん5丁に対して胡弓1丁・琴1面〈張〉がよいとされる。現在は、伴奏楽器に落ち着いているが、かつては地方に下がったクーチョーは野遊び・毛遊びの主役を張り、それをよくする者は女童たちにモテたそうな。

石川さん

 石母田竜二の手紙が届いたのは、2月中旬のことである。東京は葛飾区に住み、地下鉄東京駅勤務35才。
「“ゆかる日まさる日さんしんの日”を東京で知り、この4年鳳ホールに参加しています。毎年3月4日が近づくと、さんしんを持って近くの公園でひとり稽古をしています。今年も例にもれず、琉球音階の音色を楽しんでいると、声をかけてきた女性がいました。植村順子と名乗り、いろいろ話しているうちに、彼女が興味を示した訳が分かりました。植村順子さんはフルート奏者でした。彼女の感性がさんしんの音をとらえたのです。すぐに親しくなり後日、私は琉球笛を取り寄せて彼女にプレゼントをしました。以来、昨年のラジオ放送を録音したテープを手本に[ふたりだけの演奏会]を開催しています。今年は連れ立って参加し、客席で舞台の演奏に合わせて弾き歌い、また笛を吹きたいのですが、よろしいでしょうか」
 およそこのような文面。主催側に“否”があるはずがない。大歓迎の意を伝えた。
 そして3月4日。読谷村文化センター鳳ホールには、石母田竜二、植村順子両人の姿があった。
 笛の沖縄口は[ファンソウ・横笙]である。洒落で「ピー」とも言う。
 古くは管笙〈クァンショウ〉、洞笙、半笙、笛、横笛〈ファンテ〉と種類多々。王府時代の宮廷儀式音楽「御座楽・うざがく。うじゃがく」の主要楽器。中には縦笛も含まれている。
 現在、一般的に用いられているのは、中国・明時代の六孔の横笛で「明笛・みんてき」の名称もあって、長さも各種。節曲によって効果的に使い分けられる。沖縄産の竹はもちろん、本土産の竹でも制作しているが、中にはあくまでもファンソー・明笛にこだわり、中国から取り寄せたり、発注する奏者もいる。また、奏者の間では「八重山・小浜島に産し潮風に鍛えられた竹が最もよい音を出す」とする声もある。言われてみれば八重山歌謡の「とぅばらーま」「しょんかね」「小浜節」「月ぬ間昼間」などなどの二揚節は、ファンソーが歌情をいやが上にも高揚させるのは、誰もが認めるところであろう。

植村さん・石母田さん
 音楽はすばらしい。
 人と人の繋がりを濃密にして、絆を深めていく。[オキナワン・スピリッツ]を標榜して実施している「さんしんの日」。何の面識もない同士が、さんしん・胡弓・笛・太鼓・琴を共有、共鳴し会って親密になる。このことだけでも「さんしんの日」を評価したいと感じ入るのは、主者側の我田引水に過ぎるだろうか。


 さんしんの音に目を覚ました沖縄の春は、ツツジやコスモス諸々の花を引き連れて、そこいらまで来ている。

次号は2008年3月13日発刊です!

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