旬刊・上原直彦 「浮世真ん中」の内『おきなわ日々記』」アーカイブ版

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大風・うーかじ・風吹ち・かじふち

2007-07-19 06:11:21 | ノンジャンル
★連載 NO.297

 恥ずかしながら・・・・。台風が何よりも怖い。娘にさえ「病的」と言われる。
 南方海上に「台風発生」の報を耳にしたときから、情緒不安定になる。何がそうさせるのだろう。それは、どうやら終戦直後の家屋事情にあると、私は思っている。年に22、3個はやってくる台風は、捕虜収容所に急造されたテントぶき、茅ぶきの家屋なぞ(情け容赦)なく吹き飛ばした。
 昭和20年<1945>。小学校に就学した私は、台風のたびに恐怖を強いられていた。屋根は何の抵抗もなく吹っ飛び、風雨は容赦なく吹きつける。それでも家の中に、その形が蛸の頭に似ていることから(タクぬチブルー)と称した米軍の野戦用の雨合羽をすっぽりかぶり、身動きひとつせず、真っ暗な中で台風が通過するのをジッと待つのみの夜を幾度体験したことか。風の強い夜は、いまでも夢に見る。
 あれから60年余。いまは一応(風雨に耐えられる)家屋に住んでいるものの、ラジオ、テレビが刻々と接近する台風の状況を速報するたびに、少年の日の恐怖の一夜がよみがえり、落ち着きを失うのである。

 衣食住。すべてが乏しかった昭和25年<1950>6月23日午後4時。沖縄を襲った台風の記録がある。この台風は、宮古島を直撃。瞬間最大風速70メートル。死者25人。負傷者139人。家屋全壊1558棟。半壊121棟。畜舎全壊1779舎。半壊618舎に及んでいる。これは、宮古島のみ。沖縄全域の被害は、推して知るべし。家屋等の復興が、おくれていたかが推測できよう。
 台風が民政府・軍政府の公舎を移転させた例もある。
 昭和24年。沖縄を統治する民政府公舎は、知念村<現・南城市>の高台にあった。7月23日に上陸した台風グロリアは、風速43.8メートル。トタンぶきの公舎は、全壊に近い被害を被った。総務部、社会事業部、官房関係の重要書類は水浸し。紛失するほどであった。
 ビバリーヒルズなど、高台に住宅を建てることを好むアメリカ人。沖縄を占領しても米本国並みに、公舎を石川市<現・うるま市>東恩納の高台から、知念村の高台へと移転させていた。そのたびに沖縄側からは、
 「多くの離島がある沖縄の行政の中心は、陸・海の交通の便がある那覇市に置くべきである」
 と、軍側に再三要請していたが、聞き入れずじまいでいた。こうした中での台風グロリア。アジアの台風の猛威を米人は体験することによって、遂には要請通り(那覇の平地)に移転している。まさに「郷に入りては、郷に従え」。台風から得た教訓であった。
 ところで。台風とは何だろう。
 熱帯の海上で発生する低気圧を「熱帯低気圧」と呼び、このうち北西太平洋で発達して、中心付近の最大風速が17メートル以上になったものを(台風)とするそうな。台風情報の表現方法は、2000年6月1日に変更されて、強風域の半径が200キロ未満から300キロ以上までを単に台風。500キロ以上を(大型)。800キロ以上は(超大型)と表現。また、最大風速17メートルから25メートル以上を単に(台風)。33メートル以上は(強い)。44メートル以上は(非常に強い)。54メートル以上を(猛烈な)と表現しているそうだ。
 平均的な台風の持つエネルギーは、広島、長崎に投下された原子爆弾の10個分に相当すると言われる。しかし、移動する際に海面や地上との摩擦によって、たえずエネルギーは消失されるという。南海上に発生した台風が沖縄を襲い、九州、四国、中部、関東と北上するにしたがって勢力を弱めて北海道までは達せず、三陸から太平洋に抜けるのは、そのせいらしい。人間、そこまで解明しているのに「なぜ台風上陸を阻止することができないでいるのか!」と力んでみても、相手は大自然の現象。大進歩をつづける科学力をもってしても、どうにもならない。しかし、20世紀には宇宙を開発するという偉業を成す一方では、地球温暖化を歯止めできないでいる我々!・・・・待て!待てッ。素人のクサムヌイー<屁理屈。臭い物言い>。私の大言壮語。反省。

 今年は7月半ばにして、台風は未だ4号。例年、早い年なら3月に1号、2号が発生して、7月半ばまでには7,8号を数えているはずだが・・・・。
これも地球温暖化による異常気象なのだろうか。いずれにしても、これから10月にかけて10数個の台風が沖縄にやってくると思われる。
 風吹ちウトゥルー<かじふち。台風恐怖症>の私の身は、不安のあまり、日に日に瘠せ細ることになる。


次号は2007年7月26日発刊です!

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