■ ノンフィクション作家・辺見じゅんさんの『収容所(ラーゲリ)から来た遺書』(文春文庫)を読んで感銘を受けた。第二次世界大戦敗戦、シベリヤ抑留。極寒、飢餓、重労働・・・。過酷な状況下、希望を捨てることなく必ず生きて帰還するのだと仲間を励まし続け、自らも家族と再会することを願い続けていた山本幡男さん。だが、仲間たちの精神的支柱であった山本さんは病魔に襲われる。死亡・・・。
山本さんの遺書を携えて帰還することは不可能。そこで仲間たちは遺書を一字一句正確に暗記、帰還後に家族の元に届けた。遺書を受け取った家族の中には長男の顕一さんもいた。
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山本幡男さんの長男・山本顕一さんが父親のこと、母親のこと、弟のこと、それから恩師のことなどについて綴った『寒い国のラーゲリで父は死んだ 父、山本幡男の遺した言葉を抱きしめて』(バジリコ2022年)を読んだ(C6)。この本には父親との関係や家族のことが赤裸々に綴られている。
**しかし、父はシベリアで病死した。そして私たちに対する立派な遺書が届けられた。さすがに私も父のことを立派な人だと思うようになった。しかし、それはあくまでも頭の上だけでの理解であり、積年の父に対する感情的なしこりは、その後もずっと胸の底にわだかまったままであった。**(48頁)
**四十三歳の私の胸の奥深く長年巣くっていた、幼年時のトラウマに起因するドロドロした恨みの気持ちを嘘のようにきれいさっぱりと洗い流してくれたのであった。
それ以来私は、父のことを素直に何のわだかまりもなく、心から尊敬できるようになったのである。**(142頁)
引用文だけではどういうことなのか分からないと思うが、この本は父親理解、父親寛容について書かれていると評してもよいだろう。
昨年末(12月28日)に放送された「徹子の部屋」でゲストのタモリさんは「来年はどんな年になるでしょう」と黒柳さんに問われ、「新しい戦前になるんじゃないですかね」と答えた。偶々番組を見て、このコメントを聞いて、新しい戦前か・・・、確かにそうだな、と思った。
このように認識される現状下、今回取り上げた2冊の本の一読をお薦めしたい。