透明タペストリー

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C5「平安人の心で「源氏物語」を読む」を読み終えた(追記)

2023-01-27 | G 源氏物語

 毎年この時期に最低気温が氷点下10℃を下回ることはある。歳を取って寒さが身に応えるようになった。寒い日は巣ごもりが一番、巣ごもりには読書が一番。ということで『平安人の心で「源氏物語」を読む』山本淳子(朝日選書2021年第8刷)C5 と『羽州ぼろ鳶組⑥夢胡蝶』今村翔吾(祥伝社文庫2022年第7刷)C8  を読んだ。


■ 『平安人の心で「源氏物語」を読む』(*1)は読み終えるのにだいぶ日数がかかった。他の本を読みながら読んだので。

長い帖を前後2回に分け、源氏物語全54帖を計60回で解説している。さらに番外編が5編。帯に**平安ウワサ社会を知れば、物語の面白さ、奥深さが見えてくる**とある。「平安ウワサ社会」はこの本をアピールするためのコピーで、くだけた表現。平安貴族の日常、恋愛模様、文化的営み、貴族社会の諸事情等を知れば、といったところだろうか。平安人はこのような背景を同時代的知識として持っている。だから宮廷の女君たちは「リアルな物語」に熱中したのだ。

各帖のあらすじの後に3頁を割いて書かれた解説文を読んで、そういう背景があるのか、この和歌を踏まえて詠んでいるのか、など なるほど!なるほど! 毎度同じ喩えで芸がないが、星座の知識がないと、満天の星を見てもただ星がランダムに散らばっているようにしか見えないが、星座に関する知識があると全く違う星空に見える。知識の有無で見え方が違うということは全てのことに当てはまる、もちろん「源氏物語」にも。この本は『源氏物語』を読む前に読みたかったなぁ。

あとがきに次のような件がある。**自身の論を直接に打ち出したテーマもある。実在のきさき・中宮定子と『源氏物語』「桐壺」巻のヒロイン・桐壺更衣の関係についてがそれである。(後略)**293頁 

このことについて、この本最後の「番外編 深く味はふ『源氏物語』」の五「中宮定子をヒロインモデルにした意味」で山本さんは次のように書いている。**(前略)『源氏物語』にとって定子は「桐壺更衣のモデル」と言って終わるような表層的な存在ではない。私は、定子こそが『源氏物語』の原点であり、主題であったと考えている。定子の悲劇的な人生が時代に突きつけた問いを正面から受け止め、虚構世界の中で、全編をもって答えようとした。それが『源氏物語』だと考えるのだ。**268頁 

源氏物語の研究者は少なくないだろうが、上掲したことが平安文学研究者としての山本さんが唱える学説なのだろう。この件に山本さんの矜持を感じた。 


※ 藤原定子は一条天皇(980~1011年)の皇后。この本では「一 平安人の心で「桐壺」巻を読む」に**『枕草子』の作者・清少納言が仕えた、明るく知的な中宮である。**6頁 と紹介されている。続けて**だが、その家は没落していた。そこに入内してきたのが、時の最高権力者・藤原道長の娘で、やがて紫式部が仕えることになる彰子である。**と説明されている。

追記 2023.01.27
*1 ある方に書名間違いを指摘していただいた。ありがとうございました。訂正前は文中で『平安人の心で読む「源氏物語」を読む』としていた。時々このようなミスをする。「源氏物語」の登場人物のひとり、鬚黒を黒髭としていた。ひげでも生えている顔の部位によって髭 くちひげ,鬚 あごひげ,髯 ほおひげ と使い分ける。過去の記事を訂正した。思い込み、入力ミス 等々、原因はどうであれ、はやり注意力不足。

無知、無力をさらけ出す覚悟がないとブログは書けない・・・。