昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

エッセイ(85)映画<蜂蜜>

2011-07-29 06:00:40 | エッセイ
このところ殺伐とした世相を表す事件が頻発している。
 あの平和なイメージのあるノルウエーのテロ事件。
 
 中国高速鉄道事件は人災だと抗議する被害者たち。
 

 そんな地球の一角で自然に囲まれひっそりと暮らす家族の姿を、一幅の詩のような映像美で情感豊かに表した映画を見た。
 第60回ベルリン国際映画祭金熊賞を獲得した新鋭セミフ・カプランオール監督のトルコ映画<蜂蜜>だ。
 
  
 山深い幻想的な森林の中で、両親と暮らす6歳のユスフ少年。
 大好きなお父さんは一攫千金を夢見る養蜂家だ。
「どうだった、今日の学校は? 」
 実は吃音気味のユスフは、みんなの前で本を読むよう先生に指名されたがうまく読めなくてみんなに笑われたのだ。
「いいんだよ。秘密のことはこっそりと小さな声で言えば」と優しいお父さんはユスフを気遣う。
 お母さんから「牛乳をちゃんと飲みなさい!」と言われても嫌いなのでユスフは飲めない。
 そんな時もお父さんはこっそり彼の代わりに飲んでくれる。
  
 しかし、高い樹の上に設える蜂の巣はなかなか思うようにはいかない。
 一時成功した蜂蜜の収穫も、ある日蜂の巣は空っぽになっている。
 お父さんは新たな蜂の巣の仕掛け先を求めて家を出ていってしまった。
 お母さんは家計を助けるため茶畑で働く。
 しかしお父さんはなかなか帰ってこないのでふさぎ込みがちだ。
 ユスフは嫌いな牛乳をお母さんのために無理して飲み干す。

 学校でふたたび先生から本を読むよう促される。
 ユスフは一生懸命訥々とながら読み始める。
 笑おうとする生徒たちを先生は制して続けさせる。
 ユスフは読み切った。
 先生は生徒たちに拍手を求め、表彰のバッチをユスフの胸に付けた。

 自身のついたユスフは勇躍、お母さんに報告するため家へ飛んで帰る。

 しかし、たくさんの男たちが家に来ていてお母さんが泣き崩れている。
 お父さんが黒崖の所で巣を仕掛けようとして落っこちたという訃報が伝えられていた。

 ユスフはひとり、森の中へ入り、お父さんが初めて仕掛けた蜂の巣を眺める。
 これからはぼくが頑張ってお母さんを助けなくては・・・というように。

 詩人の谷川俊太郎氏がこの映画に言葉を添えている。

 言葉はためらい 言葉は沈黙する そんな静けさから生まれたこの映画は
 魂に向かって開かれた透き通る窓