ぼくが現役時代、小さな商社の仕入れ責任者をしていた時のことだ。
「日立のMRIにウチのベアロンが搭載できるチャンスだというのに、総代理店のHが全然対応してくれようとしないんです。何とかして下さい」
担当の若手ガッツ営業マンKが息巻いているんです、と営業課長が申立てしてきた。
医療機器の大手、日立Mが最新のコンピューター断層撮影機機であるMRI(核磁気共鳴画像方式)を発売するので搭載工具としてウチの非磁気工具を検討したいと言ってきたのだ。
この工具の総代理店であるHが無視しているというのだ。
メーカーである日本ガイシに直接問い合わせたら、そんな話聞いてないと言われたとKは憤慨している。
ぼくは早速、Hの東京支店長Sを呼び出した。
Sは業界でも実力者として有名な50歳代の働き盛り。
悠然と現れた。
わが方は、営業部長、課長、担当者、それにぼくの四人が対峙した。
「この件については既にKさんから要請を受けておりますが、値引きしろと言われても、なにしろ日立さん向けには旧値のまた旧値の特別価格をお出しているので」
S支店長は全然臆するところなく、いたって冷静に自然体で応じてくる。
「・・・」
担当のKはと見るとムッとした表情で支店長をにらめつけている。
「日本ガイシのM氏によれば、そんな話は全然聞いてないと言ってますが。機械に搭載していただくとなれば大変な波及効果があるでしょう。社内で使うものと同じ値段というわけにはいかんでしょう」
営業課長のSが顔を真っ赤にしてKの代弁をする。
「日本ガイシの所長とはチェーンブロックのPL法対応の件などいろいろとお話していますが・・・」
S支店長はメーカーとは十分通じていることを淡々としゃべる。
「この件については・・・」
それでは!とばかり、S課長が突っ込む。
「MRIに搭載すると言っても、数がどのくらいになるのか、内容がどうなのか確認していただかないと・・・」
感情的でなく、ウチの担当Kの不備をついてくる。
「・・・」
「それでは先ず、ファーストステップとしてメーカーをユーザーさんの所へうかがわせましょう。一方ではKさんの方でMRIに搭載する内容を確認いただくということで。・・・」
メモを取りながらの彼の話は実質的である。
感情的でなく、さらっとしているが、実戦で鍛えられた重みがある。
噂どおりの、なかなかの切れ者だ。
自然体といえば、夕方会社を訪れたS課長の娘さんはなかなかのものだ。
「お父さんはいつも遅いでしょう。ウチの会社はちょっと働かせすぎかな?」
ぼくが声をかけた。
「そう思います。今日は連れに来ました」
さらっと応える。
そう言われてぼくはちょっとビックリした。
しかし、気取らず、気おくれせず、飾り気のない素直ではっきりとした物言いに、現代若者の新鮮さを感じ、むしろ好感をもった。
おそらく今日はお父さんと食事を一緒にする約束でもしたのだろう。
「二階へ上がってお父さんの仕事ぶりを見ていったら」と言うと、ハイ!と言って上がっていったがなかなか降りてこない。
上がってみるとお父さんはまだ働いていて、娘さんは営業マンの間にちょこんと座っていた。
「立派なお嬢さんがお迎えに来てますよ。今日は早く仕事を終えたら」
ちょっとハイな気分でぼくは言った。
「日立のMRIにウチのベアロンが搭載できるチャンスだというのに、総代理店のHが全然対応してくれようとしないんです。何とかして下さい」
担当の若手ガッツ営業マンKが息巻いているんです、と営業課長が申立てしてきた。
医療機器の大手、日立Mが最新のコンピューター断層撮影機機であるMRI(核磁気共鳴画像方式)を発売するので搭載工具としてウチの非磁気工具を検討したいと言ってきたのだ。
この工具の総代理店であるHが無視しているというのだ。
メーカーである日本ガイシに直接問い合わせたら、そんな話聞いてないと言われたとKは憤慨している。
ぼくは早速、Hの東京支店長Sを呼び出した。
Sは業界でも実力者として有名な50歳代の働き盛り。
悠然と現れた。
わが方は、営業部長、課長、担当者、それにぼくの四人が対峙した。
「この件については既にKさんから要請を受けておりますが、値引きしろと言われても、なにしろ日立さん向けには旧値のまた旧値の特別価格をお出しているので」
S支店長は全然臆するところなく、いたって冷静に自然体で応じてくる。
「・・・」
担当のKはと見るとムッとした表情で支店長をにらめつけている。
「日本ガイシのM氏によれば、そんな話は全然聞いてないと言ってますが。機械に搭載していただくとなれば大変な波及効果があるでしょう。社内で使うものと同じ値段というわけにはいかんでしょう」
営業課長のSが顔を真っ赤にしてKの代弁をする。
「日本ガイシの所長とはチェーンブロックのPL法対応の件などいろいろとお話していますが・・・」
S支店長はメーカーとは十分通じていることを淡々としゃべる。
「この件については・・・」
それでは!とばかり、S課長が突っ込む。
「MRIに搭載すると言っても、数がどのくらいになるのか、内容がどうなのか確認していただかないと・・・」
感情的でなく、ウチの担当Kの不備をついてくる。
「・・・」
「それでは先ず、ファーストステップとしてメーカーをユーザーさんの所へうかがわせましょう。一方ではKさんの方でMRIに搭載する内容を確認いただくということで。・・・」
メモを取りながらの彼の話は実質的である。
感情的でなく、さらっとしているが、実戦で鍛えられた重みがある。
噂どおりの、なかなかの切れ者だ。
自然体といえば、夕方会社を訪れたS課長の娘さんはなかなかのものだ。
「お父さんはいつも遅いでしょう。ウチの会社はちょっと働かせすぎかな?」
ぼくが声をかけた。
「そう思います。今日は連れに来ました」
さらっと応える。
そう言われてぼくはちょっとビックリした。
しかし、気取らず、気おくれせず、飾り気のない素直ではっきりとした物言いに、現代若者の新鮮さを感じ、むしろ好感をもった。
おそらく今日はお父さんと食事を一緒にする約束でもしたのだろう。
「二階へ上がってお父さんの仕事ぶりを見ていったら」と言うと、ハイ!と言って上がっていったがなかなか降りてこない。
上がってみるとお父さんはまだ働いていて、娘さんは営業マンの間にちょこんと座っていた。
「立派なお嬢さんがお迎えに来てますよ。今日は早く仕事を終えたら」
ちょっとハイな気分でぼくは言った。