昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

エッセイ(1)一泊ドック

2008-10-02 04:09:30 | エッセイ
 総数二十人。
 うち女性四人。
 みんなゴールドのガウンを着て、ソファに座り、テレビを見たり雑誌や新聞を読みながら、次の検査の指示を待っている。
 素足にサンダルの他の人たちと違って、際立って若い彼女だけは、靴下にスニーカーを履いている。
 樋口可南子に似た、すきとおった白い肌。
 ピンクがかった穏やかな顔立ち。
 ちょっと上を向いたとがった鼻と、うしろを束ねた柔らかな栗色のアップにした髪型が、美人をお茶目に変えている。
 周囲を無視して本に読みふける瞳は爽やかで、実際は三十を越えていると思われるが、今も乙女の風情を残す。
 そしてスリムな163センチはさっさと歩く。
 
 たまたま食事のとき、われわれジイサンと同席した彼女は、たわいのない会話に、ぷっと吹き出して笑う。
 ためらいなくご飯をお代わりして、さもおいしそうに全部たいらげる。

 四人の女が、最後の乳がん検査のためにエレベーターを待っている。
 先に終えて病院を出るぼくの方を彼女だけがふり向いた。
 さよなら、一泊ドックは終った。