吉田喜重監督が亡くなったという。
享年89。訃報はもうこりごりだと言っているのに。
大島渚や篠田正浩と並ぶ
松竹ヌーヴェルヴァーグの雄。
硬派で冷徹で知的。ごつごつした映像のなかに
浮かび上がる官能性と絶望感。

吉田監督といえば、やはりこれでしょう。
「秋津温泉」(1962)。戦中戦後をはさみ、
優柔不断で女にだらしないインテリ男と、
温泉宿の娘との恋愛模様。
成瀬巳喜男の「浮雲」みたいな
ダラダラとした感じはなく、爛れてはいるがとにかく刹那的。
いまこの瞬間だけ燃え上がろうとする二人。
ラスト、渓流の岩場で横たわる岡田茉莉子を
よくもこれだけ残酷に撮ったものだ、と。
熱心に追いかけて見たわけではないけれど、
映画史のなかで重要な位置を占める監督だったことは確か。
ATGで撮った「エロス+虐殺」「戒厳令」などで
アナキズムやテロリズムを映画にした功績はとても大きいと思う。
シネフィルのくせに、
三國連太郎が出た「人間の約束」とか
優作の「嵐が丘」は未見なので、
偉そうなことは何も言えません。
どこかの映画館でやってくれると思うので、
そのときは駆けつけますから。
松竹の助監督だったときに、
巨匠中の巨匠だった小津安二郎に
食ってかかったエピソードは有名。
後年、実は小津のことを敬愛していたという話もふくめて
映画史の伝説のひとつとして語り継がれることでしょう。
といろいろ書きましたが、
なんといっても岡田茉莉子を妻にした人なのだから
それだけで幸せな人生だったと断言したいです。
シネフィルの憧れの存在だったかもしれません。合掌。