ヴィンセント・ミネリ監督「二日間の出会い」を見る。
なんかつまらなそうな邦題だと思う人もいるだろう。
じゃあ原題はというと「The Clock」。時計って言われても、ねえ。
主演はジュディ・ガーランド。おお。だとしたら
楽しいミュージカルかな、と思いきや、
彼女は歌も歌わないし、ダンスもしない。
なんじゃ、そんなん見る気せんわい!
とイケズな発言をするシネフィルの旦那(←誰?)、
まあ、ちょっと待ってくださいよ。
実はこれ、とんでもない傑作なんです。しかも笑えて泣けるという。
冒頭。駅構内のエスカレーターでの出会い。
堅物OLのジュディが
休暇中の兵士ロバート・ウォーカーの足につまづいて
ヒールを落としてしまうシークエンスから素晴らしい。
私のヒール! とジュディが叫びながら
昇りのエスカレーターで連れて行かれる場面は
サスペンスフルかつコミカルだ。
映画とエスカレーターは相性が、いい。
思い出すのが、濱口竜介監督「偶然と想像」の
仙台駅前のエスカレーターですれ違う占部房子と河井青葉。
あるいは、ヴィム・ヴェンダース監督
「アメリカの友人」でブルーノ・ガンヅが
エスカレーターに乗りながら、依頼された殺人を行う場面。
意表を突く出会いと、じわじわと移動するサスペンスが
とても映画的だと思ったりするわけで。
閑話休題。シネフィルモード炸裂ですみません。
ともあれ、偶然出会ったふたりが
デートの約束をして、夜景を見ながら
感情を高めていく場面に見ているこちらも高揚していく。
そして突然、タクシーと間違えた
牛乳配達のトラックに乗せてもらい、
そのまま配達の手伝いをする流れとなる。
なんで牛乳配達するの? と戸惑いながらも、
二人が配達する先の店先とか、
ミルクを飲む猫が一瞬写し出されるとか、
アパートの戸口からちらりと見える人の生活ぶりとか、
そんな細かな描写に目を見張る。
出会ったばかりの二人が限られた時間内に
結婚にいたるまでの
シチュエーションコメディでありながら、
映画は細部に宿るとは
このことかと感心するやら圧倒されるやら。
ドタバタで結婚式を挙げる二人だが、
あまりにもムードが無くて、
思わず泣きじゃくってしまうジュディが可愛らしい。
歌わなくても、ダンスをしなくても
素晴らしい女優さんだということは明らかで、
演技派として大成しようと思えばできたかも、
と、彼女のその後の不遇ぶりを想像すると何ともやるせない。
ロバート・ウォーカーが休暇を終え、
列車に乗るまでの制限時間が映画の大きなフックとなり、
すべての物語がスリリングに、そしてロマンチックに流れていく。
エスカレーターだけでなく、ライターや地下鉄など
出会いとすれ違いのための小道具も気が利いている。
こんな傑作が日本未公開だったなんて。
見せてくれてありがとうシネマヴェーラ。
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