Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

哀しみと強さ

2020年09月12日 | 映画など
キム・ボラ監督「はちどり」を見る。
震えるほどの傑作。
韓国映画はどこまでレベルが高くなるんだろう。
時代と因習と家族に翻弄される少女を通して、
浮き上がってくる経済成長真っ盛りの90年代の韓国。


主人公は、14歳の中学生ウニ。
餅屋を経営している両親、姉と兄と
ソウルの団地に暮らしている。
日韓ワールドカップを前にした時代の韓国。
中流、あるいはそれよりちょっと下の
家庭ってこんな感じなのか、と。日本と変わらない気がする。

それにしても、
韓国の男性は威張ってるなあと思う。
教師はやたらに高圧的だし、父親は思い切り権威を振りかざし、
勉強ができそうな兄ばかりひいきする。
その兄は、ウニが口ごたえしただけで暴力を振るう。
徹底的な父権社会というか、パターナリズムがまかり通っている社会。
そんな社会で、ウニだけでなく、姉や母親など、
女性たちの精神が精神が蝕まれている描写が続く。

そんな社会に抗おうとしているのか、
ウニは男の子と付き合ったり、万引きしたり
不良のまねごとをするのだけど、
どうにもならない閉塞感にぶち当たるところの悲痛さ。

劇中、ウニは首にしこりができる。
それが深刻な腫瘍だと判明するのだけど、
そのしこりが暗喩するものは、一体何なのだろうか。
そのあたりは観客の想像に委ねられている、というか、
テーマらしきことはまともに語られず、
ひたすらウニのヒリヒリする感情を追いかけていく。

唯一の救いは、ウニが漢文の塾で知り合った女性教師に心を許す場面。
その女性教師がウニに「殴られたら黙っていては駄目」と諭す。
そこにかすかな希望と、宿る力のようなものを
ウニだけでなく、見ている観客も受け取るのだ。
北朝鮮の金日成死去のニュースや、実際にあった、
ソウルにある大きな橋の陥落事故。
誰かが死んだり、壊れたりすることで
韓国の社会や時代が少しずつ変化していく様子が
背景的に描かれるのも見逃せない。

厳しくて強靱。そして確かな希望に溢れた映画。







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