Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

高揚のチンボツ

2023年12月29日 | 映画など
ケリー・ライカート監督
「ファースト・カウ」を見る。
2019年の作品ながら、なんだか昔なつかしい
アメリカンニューシネマを見ているような感覚になる。
一発当てよう、いい暮らしをしよう、
ここではないどこかに行こう、
つまりはアメリカンドリームを夢見る二人組の、
ほんのちょっとの成功譚と
なんとも情けない転落劇にしみじみ。


舞台は1820年代の米国オレゴン州。
開拓時代だから西部劇といってもいいかも知れない。
腕のいい料理人だった流れ者のフィゴウィッツと、
一攫千金を夢見て米国に渡ってきた
中国人のキング・ルーの二人組が、
村長が極上のミルクを出す雌牛を買い付けたのを見て、
こっそりその牛の乳を搾り、それでドーナツを焼き、
店を開いたら、これが大繁盛。
金持ちになれると大喜びしたのも束の間、
村長にそのことがばれて、命を狙われることに。

なんとも切ない物語ではあるけれど、
開拓時代の米国の、いかにも辺境な感じ。
だからこその豊かな自然と、白人だけでなく、
ネイティブアメリカンの人たちも多く存在し、
混沌とした人間関係が渦巻く土地の風景に癒やされていく。

フィゴウィッツが、牛の乳を搾りながら、
やさしく語りかける場面は危うくも神々しい。
無器用で社会に不適応な彼を見つめる、
物言わぬ牛の穏やかな目が忘れがたい。
そして彼がつくるドーナツが
とても美味そうなのも本作の魅力のひとつである。

食い物が美味そうに見える映画は、
それだけで傑作と言ってもいいかも知れない。
「人斬り与太 狂犬三兄弟」でハグレモンの
三下やくざ菅原文太がぶち殺されたあと、
情婦の渚まゆみが喰らうラーメンも実に美味そうだったし。

と、なんか話が横道に行ってしまった。
アホなシネフィルですみません。

ともあれ、ケリー・ライカート監督は、
名も無いただの二人の男たちの、
地味で地道で、少し間抜けな生きざまを淡々と描き、
それを現代の視点にまで繫げて観客に考えさせる。

ネイティブアメリカンの人たちが
画面中にあふれていて、スピリチュアルで幻想的な
味わいになっているのも捨てがたい。そういえばこの監督の、
「ミークス・カットオフ」でも開拓時代の米国が舞台で、
ネイティブアメリカンと白人の
ディスコミュニケーションをテーマにしていたっけ。
誰か(アホではない)シネフィルの人、
ネイティブアメリカンと
アメリカ映画の関係についてレクチャーしてくださいな。

そういえば、リリー・グラッドストーンに似た
ネイティブアメリカンの女の人が出てるなあ、
と思ったら、本人だった。はっきりとは説明されないが、
白人である村長の妻役だと思われ、スコセッシは本作を見て、
「キラーズ・オブ・ザ・フラワー・ムーン」に彼女を起用したに違いない。
まんまのキャラでスコセッシ映画に出ていますな、
と、アホなシネフィルはひとりほくそ笑んでいるのです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする