Days of taco

やさぐれ&ヘタレtacoの日常と非日常

グレーゾーンの醍醐味

2010年02月14日 | 映画など
ようやく書きます。
西川美和監督『ディア・ドクター』。

この映画が興味深いのは、
登場人物の造型がステレオタイプではないところだ。
無医村に突如やってきた伊野という医者(笑福亭鶴瓶)。
人情家で面倒見が良く、村じゅうの尊敬を集めることに。
しかしこの医者、どこか挙動不審であり、
周りの人々もどこか変だと思いながらも、
この人間味溢れる医者に翻弄されていく。

人間はある意味、グレーな存在であり、
善人でもあれば悪人でもある。
さらに善人70パーセントで悪人30パーセントのときもある。
罪を犯すときもあれば、慈悲溢れる行動を取ることもある。

そんな人間のグレーなところを、
主演の鶴瓶が見事に体現しているわけで、目の演技が絶妙。
もともとこの達者な芸人さんは、目が笑っていないし、
不気味な人物を演じさせたら上手いのは当然だろう。

看護士に扮した余貴美子(左)も好演です。

急患が運ばれて、
その患者の肺に気泡が溜まっていると判明するシーンがある。
その胸に穴を開ける処置をする必要に迫られた鶴瓶の目が泳ぐ泳ぐ。
これほど目が泳ぐ演技の上手い人は初めて見た。
演技賞を総ナメしたのは、この目の泳ぎっぷりのおかげだと想像する。

映画という表現方法は、
ステレオタイプなキャラクターを描きやすい、と思う。
正義感溢れるヒーローとか、純情無垢な娼婦とか。
映画に登場した途端、
この人は善人だ、とか。可哀相な人だ、とか。
わかりやすいキャラクターの方が観客も安心するわけで。

だが、この『ディア・ドクター』のように、
登場人物の多くが最後までどんな人間なのかわからずじまいな作品は珍しい。
観客を不安にさせることもあるだろう。
だからこそ、興味深い。
見る人に何らかの感情を引き起こすのが映画なのだし。

西川美和という人は、デビュー作の『蛇イチゴ』にしても、
評判の高かった『ゆれる』にしても
人間の善悪を越えた部分の、
もっと深いところに踏み込もうとしている。
あと、ネタバレしないように書くけれど、
最後の最後でスカしたオチを持ってくるのも特徴。

昨年の邦画でベストワンの声が多いけど、
確かにそうかも、と思った次第。
コメント
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