今夜の『NHKクローズアップ現代』が、先だって亡くなった囲碁界の鬼才藤沢秀行を採りあげた。心に残る番組であった。
私は碁は打たないが、私の周囲にはいわゆる「碁打ち」がうようよいる。弟4人がみんな5段の6段の7段のと言っている(もちろんアマチュアの世界であるが)。寄るとさわると自分が一番強いという話をしているように見える。話によると負けた碁はほとんどなく、負けた場合も「本当は勝っていた」という話が多い。中には「完全に勝っていたのに負けた」という話すらある。実に不思議な話である。
その中に、一人プロがいる。甥っ子の首藤瞬という6段である。この男は、当然のことながら「勝っていたのに負けた」というような話はしないようだ。時々話を聴くが、あまり勝ったとか負けたとかの話はしないように見える。前述したアマチュアの連中とは違う世界に生きているのであろう。
NHK番組の「藤沢秀行の世界」は、厳しい勝負の世界――正に「勝った負けたの世界」を題材にしながら、全く別の話をしていたように聞こえた。彼にとって重要なことは、勝ったか負けたかより「良い手を打つこと」であったようだ。だから彼は多くを勝ったのかもしれない
結論的に藤沢秀行の言ったことは、「碁は技術だけでは勝てない。」、「勝つためには人間を磨け」、「勝負はその人間の生き様の現われだ」ということのようだ。
藤沢秀行という男は、いわゆる「碁打ち」という水準をはるかに超越したところに生きていたのであろう。
私の周囲には、前述したようにいろんな碁打ちがうようよ居るのでヤヤコシイのであるが、一人プロとして生きる甥っ子は何とか藤沢秀行の哲学を追求してもらいたいものだと思っている(もちろん、人真似でなく自分の哲学を追求することとして)。その素質があるから他の「碁打ち」と違ってプロになったのだと思うから・・・。