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スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

漱石のこころ&ニュアンス

2025-05-13 15:06:35 | 歌・小説
 もう3ヶ月以上前のことになりますが、赤城昭夫の『漱石のこころ』という本を読み終えました。2016年12月20日に岩波新書から出版されたものです。
                            
 僕もそうでしたが,勘違いする人も多いと思いますので最初にいっておきますが,これは『こころ』の解説書とか論述書ではありません。『こころ』が関係しないというわけではありませんが,文字通りに漱石のこころ,すなわち漱石の精神に関連します。
 僕は作家論と作品論を分類していますが,この本は典型的な作品論です。赤木がなぜ漱石のこころに焦点を当てるのかといえば,漱石が書く小説に漱石の意図があって,この意図を小説の中から見出すことが作品を正しく解釈することだと赤木が考えているからです。僕はたとえば蓮実重彦が『夏目漱石論』の中で示しているように,テクストの作者がだれであるのかということを意図的に考慮から外す読み方を好み,そもそも赤木がいうような,小説の正しい読み方などというものがあるとは考えませんから,赤木のいうことにはまったく同意できません。ただこれはこれで赤木の考え方であり,そういう考え方もあるということ自体は僕も理解しますので,このことについてここで争うことはしません。ただ,赤木のような仕方で小説の正しい読み方を規定するなら,小説というのはどうしても普遍的なものではなく同時代的なものになってしまうだろうとは思います。
 このようなわけで,本書で赤木が示している読み方が正しい読み方であるとは僕は考えず,むしろ赤木に独自の読み方であると解します。ただそうした読み方の中には,そういう読み方もあるだろうと納得できるものが含まれているのは確かです。とくにこれまでされていなかったような読み方をしている部分もありますので,そうした部分に関しては紹介していく時間があれば紹介していくことにします。

 予測される疑問を解消するため,『エチカ』の別の部分から,有限finitumは無限infinitumであるという命題が真verumの命題であり得るということを論証していきます。
 第一部定義五では,様態modiは実体の変状substantiae affectioであるとされています。ただし第一部定理一四でいわれているように,Deus以外に実体は存在しませんから,もし様態が存在するのであれば,というかこの仮定は無意味で,様態は現実的に存在しているわけですから,それらの様態は神の変状である,あるいは神の属性attributumの変状であることになります。
 第一部定理二二では,神のある属性が様態的変状modificatioに様態化するといういい方がされています。岩波文庫版の訳者である畠中尚志はこの部分に訳注をつけていて,様態的変状に様態化するというのと,様態に変状するというのは同じ意味であるという主旨のことをいっています。
 この訳注は何か間違ったことをいっているというわけではありません。たとえばXという物体corpusが存在しているとして,延長の属性Extensionis attributumが変状したXというのと,Xという様態的変状に様態化した延長の属性というのとでは,同じようにXのことを指示していると理解できます。なので延長の属性がXという物体に変状するというのと,Xという様態的変状に様態化した延長の属性というのは,どちらもXという物体のことを指示している限り,同じ意味であるということになるでしょう。
 しかし僕はこの間には,ニュアンスの相違というのが確かにあると思うのです。もしも延長の属性が変状したXというのであれば,その主眼は物体であるXの方に置かれているいえるでしょう。これに対して物体Xという様態的変状に様態化した延長の属性といわれる場合には,その主眼は物体Xに置かれているわけではなく,物体Xに変状した延長の属性の方に置かれていると解せるからです。つまり延長の属性が変状した物体Xと,物体Xという様態的変状に様態化した延長の属性は,同じように物体Xのことを指示していたとしても,着眼点には相違があると僕は考えるのです。そしてこの相違は,前者は有限であるものとしての物体Xに対して,後者は物体Xという有限なものに変状した無限という相違に還元できると考えます。

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