スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

既定路線&生産性

2022-05-20 19:14:34 | 将棋トピック
 米長は佐藤に直談判されたということは明かしていますが,そのときの心情については何も吐露していません。会長である自分に対して意見してきたことを不快に感じたかもしれませんし,逆にほかの方法ではなく一対一の場で自身の考えを伝えてきたことを好ましく思ったかもしれません。ただ,米長がそのときにどのように感じていたのだとしても,米長は自身の後継者は谷川であると考えていたのですし,遅くとも谷川が理事になってからは,自身の病気のこともあり,谷川が会長になった後のことまでは考えていなかっただろうと推測されます。なので,佐藤が将棋連盟の会長として相応しいかどうかということについては,晩年は何も考えていなかったであろうと僕は思います。
 谷川は自身の後継者に佐藤を指名することになりましたが,これは既定路線であったと考えられます。2012年に佐藤は王将を獲得しましたが,その直後に書かれた河口俊彦の文章の中に,佐藤には羽生や森内とは違った将来があって,それは棋士仲間からの信望が絶大であるために会長候補であるという主旨のことが記述されています。米長が死んだのはこの年ですが,このときにはまだ存命でしたので,米長が会長の時点です。河口はおそらく何年かすれば佐藤は会長になるだろうといっています。河口は米長の病状がどれほど深刻であるかということは知らないで書いている筈で,もしかしたらそれは米長の次の会長という意味であったかもしれません。ただ,河口はこのような文章を記述して,それを公開しても構わないと思っていたのは間違いありませんから,米長が会長であった時代に,すでに佐藤が会長候補であるとみられていた,それは河口にだけでなく,多くの棋士にそう目されていたことは確かだといえるでしょう。ですから,谷川が会長職を辞さなければならなくなったとき,佐藤を後継に指名したのは,確かに既定の路線だったのです。本当は谷川はもっと長きにわたって会長を続けるつもりでいたでしょうから,まだ佐藤を理事職に就ける必要はないと思っていたのでしょう。もしも谷川が,何らかの事情で近いうちに後継者が必要だと思っていれば,佐藤は理事になっていた筈です。

 フロムErich Seligmann Frommが示唆している自己関心と良心の間にある関連性とは,ごく簡潔にいうなら,自己関心が高いほど良心が働き,自己関心が低くなるほど良心が働くことが困難になるということです。このときフロムは文脈の中で,自己関心を生産性という語に置き換えています。フロムがいう生産性というのは,スピノザの哲学でいう能動actioと意味合いが一致すると解して間違いありません。つまり人間は,能動に傾くほど良心が働くのであり,受動passioに傾くほど良心が働くことは困難になるというようにフロムはいっていると解して差し支えありません。もちろんこれは関連性なのであって,能動が良心の原因causaとなるということでは必ずしもありません。むしろその逆もまた真verumなのです。つまり,現実的に存在する人間は,良心が働くほど能動的であることができ,良心が働かない場合は受動に隷属するのです。
                                        
 ここでフロムが,社会的に一致した道徳的目標があるということを前提していたことを想起しなければなりません。その目標がどのようなものであったにせよ,良心の働きを能動と関連させるのであれば,このフロムの主張はスピノザの哲学と一致をみることができるからです。なぜなら,精神の能動actio Mentisというのはスピノザの哲学では理性ratioの働きactioを意味しますが,第四部定理三五にあるように,人間の現実的本性actualis essentiaは理性に従っている限りでは一致するからです。したがって,道徳的目標がどのようなものであったとしても,一致してその目標への道を進むことになるでしょう。それに対して,第三部定理三四にあるように,受動状態においては人間は対立的であり得ますから,その目標がどのような目標であれ,各人が一致してその目標に向かって進むということはできないでしょう。
 さらにここには,もうひとつ重要なことが含まれています。それは,良心が働いているか働いていないかということが,人間が能動に傾いているか受動に傾いているか,あるいは同じことですが,第三部定義二により,ある人間のなす事柄に対してその人間が十全な原因causa adaequataとなっているかそれとも部分的原因causa partialisとなっているのかということに帰せられるとフロムがみている点です。ここにある特徴があります。

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