スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

ニーチェと哲学&動物と馬

2014-06-17 19:12:08 | 哲学
 『スピノザと表現の問題』がドゥルーズの徒弟時代のスピノザ研究集成であるとするなら,そのニーチェ版が『ニーチェと哲学』であることになります。出版は1962年。ドゥルーズにとっては2冊目の著書で,『スピノザと表現の問題』に先立つこと7年です。
                         
 ニーチェ哲学の研究ですから,ここでドゥルーズがいっていることは,ニーチェの主張に応じたものと理解されるべきでしょう。もっとも,スピノザの哲学がそうであるように,ニーチェの哲学も様ざまな仕方で解釈されます。その解釈の多様さという点では,おそらくニーチェはスピノザ以上でしょう。手垢のついたことばを用いれば,ニーチェの哲学に傾倒する学者には,右派から左派まで幅広く存在し,これはスピノザの哲学には見られないような傾向であるといえるからです。
 ニーチェにとってスピノザとの出会い,もちろんそれはスピノザの著書を通じての出会いですが,とても鮮烈なものでした。しかし後にニーチェがスピノザの哲学を反動的なものとみなすようになったのは,たとえば第三部定理三八について書いたときの通り。そしてこの本は,ニーチェの主張に合致するものですから,そうした見解が表明されています。僕はドゥルーズ自身の哲学にはさほど詳しいわけではありませんが,少なくとも徒弟時代とか哲学者としての前半は,スピノザよりもニーチェを重視していた,いい換えればスピノザの哲学よりもニーチェの哲学の方に親近感を覚えていたふしがあるのは否定できないように思います。この本におけるスピノザの反動性の主張には,そうしたフィルターを通す必要があると僕は思います。というのも少なくとも後年のドゥルーズは,ニーチェが反道徳の哲学者と規定されるのと同じ意味で,スピノザを規定しているからです。これは『スピノザ 実践の哲学』の第二章や第三章から明らかですが,この反道徳という点は,ドゥルーズがニーチェを重視する理由のひとつを形成しています。
 訳者によれば,ドゥルーズがニーチェのドイツ語をフランス語に翻訳する際,明らかな誤訳があるようです。その部分は大きな注意が必要です。

 無限であるものは有限ではないというのは,少なくともスピノザの哲学においては真の命題と解さなくてはなりません。なぜなら第一部定義二の有限の定義は,無限であるものには該当しないからです。
 したがって,限定と否定の間に相関関係があるとしても,それを最も素朴な形で理解することはできません。いい換えればAはBではないという命題が真であるということと,AがBに限定されるということを,直ちに等置するということはできないのです。
 そこで,AはBではないというのが真の命題である場合に,AがBによって限定され得ない場合というのがあるのかどうかを探求する必要があります。そしてそれは実際にあります。たとえば,動物は馬ではないという命題は明らかに真の命題であると考えられますが,だからといって動物が馬によって限定されているとはいえないからです。
 動物が馬によっては限定され得ない理由はとくに説明するまでもないでしょう。馬というのは動物の一種だからです。一般的にいい換えるなら,ある類を構成するような概念が,その類の中の種の概念によって限定されるということはあり得ません。むしろ種の概念の方が,類の概念によって限定されなければならないのです。
 この動物と馬との関係において重要なのは,動物は馬ではないという命題が真の命題であるのに対し,その主語と述語とを交換した,馬は動物ではないという命題が偽の命題であるということです。そしてこの主語と述語の入れ替えによって,限定と否定の相関関係のありようは,別の仕方で構築されることになります。すなわち,AはBではないという命題が真であるというだけでは,BがAによって限定されるとはいいきれません。仮にこの命題が真であったとしても,主語と述語が入れ替わった同形命題であるBはAではないという命題が偽の命題であるのならば,これはむしろAがBによって限定されるという関係を示しているのではなくて,BがAによって限定されているということを示していると理解されるからです。
 しかし,このことは,動物という概念は一切の限定を受けない概念であるということを意味しているわけではありません。動物は,動物という種を構成する一切の類によって限定され得ないというだけのことです。ですからまだ論を進めていく必要があるでしょう。
コメント
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