21グラム
2003年/アメリカ
ベニチオ・ベルトロが圧巻の演技
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 70点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 75点
音楽 75点
アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督・製作の意欲作。心臓移植に係わった3人(ショーン・ペン、ナオミ・ワッツ、ベニチオ・デルトロ)の運命的な出会いを描いている。その3人が、アカデミー賞は逃したが、それぞれ好演している。特にベニチオ・デルトロの存在感は圧巻でこの映画には欠かせない。「トラフィック」以来久し振りのはまり役だ。
時間を交錯させた編集で冒頭登場人物と物語の進展が興味深いが、ちょっと懲りすぎの感があった。心臓移植を受けたショーン・ペンの人生観を中心に描いたため、多少強引な結末に見えてしまったのが残念。奇を衒わずに、ベニチオ・デルトロを主演にしたほうが、見応えあるハートフルな映画になったのでは?
ショコラ
2000年/アメリカ
amさん男性
チョコレート好きなら楽しい寓話shinak総合 80点
ストーリー 75点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 85点
「サイダー・ハウス・ルール」のラッセ・ハルストレム監督がジョアン・ハリスの原作を映画化。
フランスの片田舎・ランスケネ村でチョコレート店「マヤ」を開店したヴィアンヌ(ジュリエット・ビノシュ)アヌーク母娘が古い因習で凝り固まった村人達を癒す物語。
時代設定がとても1959年とは思えない程古めかしい。だからこそ大人の寓話が成立するのかもしれない。人物設定がはっきりしている。頑固な老女にジュディ・デンチ、流れ者でヴィアンヌに一目惚れするジョニー・デップ、自分を節して村の伝統を守ろうとする村長アルフレッド・モリーナ、実生活では監督夫人のヴィアンヌのパートナー、レナ・オリンなど多彩。映画より舞台のほうがイキイキとしそうな気がする。
自分はチョコレート好きではないが、人の心を円やかにする不思議な効果があるのだろうか?レイチェル・ポートマンの音楽がさり気なくて秀逸。
麦の穂をゆらす風
2006年/イギリス=アイルランド=フランス
社会派ケン・ローチ監督が本領発揮
shinakamさん
男性
総合 90点
ストーリー 90点
キャスト 90点
演出 90点
ビジュアル 90点
音楽 85点
1920年代のアイルランドの独立と内戦を2人の兄弟を通して描いたケン・ローチ監督の力作。カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品。
今でも英国はIRA問題を抱えていて、長い闘争の歴史は完全に終結していない。これは反英国映画だとの論争に真っ向から挑むK・ローチの勇気に気骨を感じる。
弟デミアンを演じるキリアン・マーフィーは舞台となった南部の町コークの出身で祖父が英武装警察ブラック・アンド・タンズに銃殺されただけに念願の主演。前作の女装ぶりが話題となった「プルートで朝食を」とは打って変っての役柄に渾身の演技。
兄のポードリック・ディレニー、恋人のオーラ・フィッツジェラルド、同志ダンのリーアム・カニンガムも負けず劣らずの好演。そして何より凄いのは、家を焼かれた恋人シネードの母親・祖母はオーディションで選ばれた素人でありながら、土地と家を守る一途な思いを見事に演じていること。フィルターを掛けたようなアイルランドの風景がこの物語の深みを表している。
イラクの紛争を語るまでもなく、世界に同じような問題を抱えている今こそ、ケン・ローチの市井の人々の視点から見た争いの惨さを訴えた映画作りを称えたい。
白夜(1957)
1957年/イタリア
可憐なマリア・シェル
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 75点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 70点
音楽 75点
ドフトエフスキー原作をスーゾ・チェッキ・ダミーゴが脚色、ルキノ・ヴィスコンティ監督のラブ・ロマンス。主演のマリア・シェルが、偶然会ったマルチェロ・マストロヤンニと1年間思い続けたジャン・マレーの間で、揺れる気持ちを可憐に演じている。
19世紀のペテルブルグを’57年のイタリアに置き換えているが、男女の愛は時と場所が移っても、それ程変りはないのだろう。ただ現在のテンポでは1年間音信不通の男を待つ女は皆無だろう。美少女M・シェルと美男子M・マストロヤンニとJ・マレーのラブ・ロマンスに浸りたい。全編セット撮影ながら、ニーノ・ロータの音楽とともに当時のイタリア・港町の情景を偲びながら見る映画。
フルモンティ
1997年/イギリス
面白くて、思わずホロリとするハートフル・コメディ
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 85点
サイモン・ボーホイのオリジナル脚本をピーター・カッタネオが監督。イギリス北部・鉄鋼の街シェフィールドで失業中の男達がストリップでお金を稼ごうとするハートフル・コメディ。邦画で大ヒット中の「フラ・ガール」に良く似た設定。
「アンジェラの灰」のロバート・カーライル(ガズ)を始めトム・ウィルキンソン(元上司)、マーク・アディ(太身の親友)の男達の涙ぐましい葛藤ぶりが面白くて、思わずホロリとさせられる。
大笑いすることなく、クスリとさせるイギリス・コメディの真髄を如何なく発揮した傑作。
夏の嵐(1954)
1954年/イタリア
19世紀ヴェネチュアの絢爛豪華な恋愛劇
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 85点
ビジュアル 90点
音楽 85点
カミロ・ボイトの短編をルキノ・ビスコンティが監督・脚色した1866ヴェネチュアを舞台に、イタリア伯爵夫人(アリダ・ヴァリ)とオーストリア将校(ファーリー・グレンジャー)の愛憎・復讐劇。
冒頭のオペラ「吟遊詩人」から、絢爛豪華な衣装・美術・舞台とビスコンティならではの凝りようで、物語の展開以外に当時のヴェネチュア文化を堪能できる。いわば上流社会の不倫ものだが、男はフランツ(F・グレンジャー)を始め、時代に流されながら生きて行く。盲目の愛を貫いたリビア(A・ヴァリ)の女の強さをいっそう感じる。それだけ裏切られた悲しさは相手を許せないのだろう。
当初マーロン・ブランド、イングリッド・バーグマンのキャスティング予定だったが、実現したらどんな映画になったのだろうか?
ラ・マンチャの男
1972年/イタリア
「見果てぬ夢」の大合唱が印象的
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 85点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 85点
「ある愛の詩」のアーサー・ヒラー製作・監督、ローレンス・ローセンタール音楽監督で舞台劇を映画化。ピーター・オトゥール、ソフィア・ローレンの主演。
宗教裁判のため入牢中のセルバンデス(P.オトゥール)が模擬裁判で所持品押収されそうになり、「ドンキホーテ」の原稿を守るため、ミュージカルを再現してみせる。召使をサンチョ・パンサ(ジェームス・ココ)に牢のアンドンサ(S・ローレン)をドルシネア姫に仕立て一大ミュージカルが始まる。有名な「見果てぬ夢」を大合唱で盛り上げるシーンなど圧巻だが、舞台が映像に変るところに多少無理があるのが残念。
男はつらいよ 寅次郎物語
1987年/日本
元気を取り戻した寅さん
shinakamさん
男性
総合 80点
ストーリー 80点
キャスト 80点
演出 80点
ビジュアル 80点
音楽 75点
シリーズ39作目。ヒロイン秋吉久美子が、久々に寅さんを元気にさせた。
秀吉という少年の母親探しで、偶然知り合った吉野の旅館での父さん母さんと呼び合うところがほのぼのとしていい。もう以前のような、失恋劇は通じないシリーズならではの辛さを上手く乗り越えた。吉野と伊勢志麻の美しい風景と、名物の別れのシーンが情緒たっぷりに電車と船で2回もある。そして、光男が寅さんに「人間は何のために生きているのか?」と聴くシーンなど見所満載のシリーズとなった。
ブラック・ダリア
2006年/アメリカ
前評判ほど悪い出来ではない
shinakamさん
男性
総合 75点
ストーリー 75点
キャスト 80点
演出 75点
ビジュアル 80点
音楽 75点
「L.A.コンフィデンシャル」のジェイムズ・エルロイ原作を、サスペンスの巨匠・ブライアン・デ・パルマが監督。
'47にロスで起きた有名な迷宮入り猟奇殺人事件で、バッキー(ジョシュ・ハーネット)とリー(アーロン・エッカート)のロス警察刑事と、2人を惹き込むエイ(スカーレット・ヨハンソン)の物語。それに、被害者エリザベス・ショート(ミア・カーシューナー)と大富豪の娘マデリン(ヒラリー・スワンク)が絡む。
前評判は今ひとつだったが、時代を切り取ったシュールな映像でデ・パルマ監督は健在だ。凝りに凝ったカメラワークも相変わらず魅せてくれた。
余りにも有名な事件だけに登場人物が多く、予備知識の有無でストーリーの判りにくさが難点だ。前半でのバッキーが、リーとの友情やケイとマデリンへの愛情の揺れを描くあまり、肝心のブラック・ダリア殺人事件のミステリーが薄まってしまったのが残念。
手紙
2006年/日本
犯罪者の家族が背負った重み
shinakamさん
男性
総合 85点
ストーリー 85点
キャスト 85点
演出 85点
ビジュアル 80点
音楽 85点
直木賞作家・東野圭吾の原作を、生野滋朗が監督した社会派ドラマ。
犯罪が多発する時代で被害者の家族を主題にしたドラマはかなり見られるが、犯罪者の家族を取り上げたところがこの映画の視点となっている。
弟(山田孝之)を大学に入れるために盗みに入る兄(玉山鉄二)の短慮を責めるべきところだが、兄弟2人が必死に生きて行くには今の競争社会は過酷過ぎる。格差社会とはいえ、吹石一恵の令嬢との恋は一昔前を感じさせて不自然さは否めないが、人間の幸せは一寸先は判らないのは現実だ。
原作はミュージシャンを目指した直貴(山田孝之)が映画ではお笑いに変っていた。これで感動のラストシーンが実現するあたりは、監督の巧みな手腕を感じた。主役の3人は単なる青春ドラマではない重いテーマを、6年の歳月とともにしっかり捕らえて好演している。とくに沢尻エリカの芯の強い女性ぶりが良かった。また中盤出てくる電器販売会社会長役の杉浦直樹がいい味を出していて、このドラマの主題をさりげなく語っている。観ていて思わず出てくる涙がこの映画を象徴している。