晴れ、ときどき映画三昧

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「椿三十郎」(62・日)80点

2020-01-17 15:54:24 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

「用心棒」の素浪人・桑畑三十郎が、お家騒動に揺れる藩に現れ「椿三十郎」として再登場した。
 シリアスな西部劇調の前作に対し、ユーモア味溢れる本作。この二人にコメディは不似合いだというイメージを覆す、人間味のある素浪人として蘇った。
 原作は山本周五郎の「日々平安」で、黒澤は助監督・堀川弘通のために企画していたが、東宝は小林桂樹かフランキー堺主演のコメディには制作費が掛かりすぎるとのことで没。用心棒の大ヒットで続編を要請されたため、主人公を三十郎に変えての改訂版となった。
 藩の不正に若侍9人が決起、大目付菊井六郎兵(清水将夫)に直訴が叶って喜ぶ密談の最中に三十郎(三船)が登場、知略と凄腕で若侍たちを助けるというハナシ。黒澤作品にしては96分という短さで展開に一切無駄がなく、テンポの良い勧善懲悪物語に仕上がった。台詞も現代的で黒澤・時代劇入門編として最適だ。
 カラー全盛の時代ながらモノクロで時代感を醸成し、リアルな殺陣とともに東映時代劇を衰退させ血の色を緩和させる役割を果たしている。そのためパートカラーに失敗し断念した赤い椿を黒く塗り、赤を観客に納得させてもいる。
 主演の三船を始め宿敵・仲代達矢、志村喬、藤原釜足などお馴染みの面々に、若大将シリーズで人気絶頂の加山雄三、サラリーマン・シリーズで円熟期の小林桂樹、往年の大女優入江たか子、加えて団令子など豪華な布陣。
 なかでもコメディリリーフとして人を斬るのはいけないことと諭す入江と、終盤登場する昼行灯・城代家老役の伊藤雄之助が教訓的な台詞で絶妙なバランスを取る役割を果たしている。
 40秒で30人を斬る三船の殺陣や、仲代との決闘シーンはウソをエンターテイメント化する黒澤演出の真骨頂が発揮されている。その後の時代劇に多大な影響を与える意味でも映画史上に残る名シーンだ。
 黒澤にとっても三船にとっても三十郎を超える傑作時代劇はその後生まれなかった。ましてカラーでリメイクした森田作品は筆者には未だに食指が動かない。


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