・ 加藤泰・錦之助コンビによる東映最後の股旅映画。
戦前4回、戦後4回映画化された長谷川伸原作による股旅物の代表作のひとつ。なかでも市川雷蔵主演・橋幸夫主題歌の大映作品(61)と並ぶ秀作といわれる加藤泰監督・中村錦之助主演で、渥美清・池内淳子が共演する東映最後の本格股旅映画。
時次郎を慕う弟分・見延の朝吉(渥美清)は、一宿一飯の恩義で佐原の勘蔵一家のために牛堀の権六一家へ単身殴り込みをかける。
多勢に無勢で嬲り殺しになった朝吉のために2度と長脇差を抜くまいと誓った時次郎だったが、またも抜く羽目に。
旅立った時次郎は渡し船でおきぬ(池内淳子)と太郎吉親子と一緒になり、熟れた柿を渡される。その親子は、中野川一家最後の生き残り・三ツ田の三蔵(東千代之介)のおかみさんと幼い息子だった。
掛札昌裕の脚本は、原作にはない一宿一飯の恩義という<ヤクザ稼業の不条理な掟>を強調する逸話から始まる。
ここでは、人の善い朝吉(渥美清が好演)がイキイキと動くことで<義理人情の世界の虚しさ>を観客に沁みこませる役割を果たしている。
さらに娼婦お松(三原葉子)と女親分お葉(弓恵子)を配した男と女の一期一会も絡まって、実に絶妙な王道の股旅映画の世界が繰り広げられる贅沢な冒頭部だ。
初期の東映時代劇を背負った錦之助と千代之介が、掟通りに果たし合いをするシーンは西部劇の決闘のよう。
脇に廻った千代之介の佇まいは「任侠清水港」(57)での2人の競演でも感じたが、錦之助とならでではの雰囲気があって、他の共演者では醸し出されない独特の世界観だ。
股旅映画が任侠映画・実録ヤクザ映画に取って代わったこの時代、ひときわ感慨深いシーンでもある。
加藤泰は独特の美意識を持った監督で、戦前の名監督山中貞之助を叔父にもち、伊藤大輔に師事した苦労人。
そのローアングルとフィックスによる長廻しに酔しれてしまう映画ファンも多く、筆者もそのひとり。
その典型が、一年後高崎宿で再会する時次郎とおきぬの名場面。宿の女将(中村芳子)に身の上話しをする映像は実に6分あまりの長廻し。
門付けのおきぬだと分かって外に飛び出し再会するシーンはこの映画のハイライトで、何度見ても見入ってしまう。
加藤泰・錦之助の黄金コンビは本作を最後に別々の世界で活躍の場を求める羽目になったが、筆者にとって「瞼の母」(62)とともに永遠に記憶に残る作品となっている。
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