晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」(07・日) 75点

2013-05-17 17:17:19 | 日本映画 2000~09(平成12~21)
・普遍的な母と息子の物語に日本の原点を観た。

 

 第3回本屋大賞を受賞したリリー・フランキーのベストセラーをオダギリ・ジョー、樹木希林主演で映画化、この年の日本アカデミー賞作品賞など5部門を受賞した。「ALLWEYS 三丁目の夕日」以来、昭和の高度成長期を懐かしむ映画がヒットしているが、少し時代がズレルが本作もそのひとつ。

 筑豊の炭鉱で育った幼少時代から、最愛の母を東京タワーの傍の病院で看取るまでの、ボクとオカンを取り巻く人々との触れ合いを優しく温かく描いている。筆者は東京育ちだが、病院の窓から東京タワーの夜景が輝くバックにボクのナレーションで始まるこのドラマは、故郷から上京して暮らすヒトにとって、どこか自分と重なり合うようなシーンがあってまるで自分のドラマを観るような想いだろう。

 貧しかった少年時代、ボクの記憶を辿りながら心象風景として活力に満ちた昭和の日常が積み重ねられてゆく。若かったオカンは、自分の居場所を失い自堕落なオトンと別れ、別々の暮らしが始まる。母一人子一人の生活が15歳まで続けば典型的なマザコンになるのは自明の理。トキドキ会うオトンとは何処か他人行儀になる。こんな家族を取り巻く親戚や友達とのエピソードが淡々と語られる手法は、原作の雰囲気を壊さないような松岡錠司の演出と松尾スズキの脚本によるもので、普遍的な母と子の物語を過度に盛り上げることなく好感が持てる。絶妙な間でフェードアウトを多用するのは情感を誘う工夫が窺える。

 主演のオダギリ・ジョーは、極ふつうの男を演じるには清潔感があって個性的だが、何処か頼りなくナイーヴなボクに成りきって好演だった。若いころのオカンに内田也哉子・年を経てのオカンを樹木希林の実の親子が演じている。映画初出演の内田は出番も多く、大変だったと思うが天性のセンスで無難に若い母をこなしていた。樹木希林には言うこともないぐらい今や日本の母の代表女優である。自然に演じることの難しさを実感させない巧さはピカイチだ。今社会問題になっている「オレオレ詐欺」に最も掛かり易い息子への無償の愛をそこかしこに感じる。上京する時の寂寥感と息子と暮らせる高揚感を感じるシーンは最高の見せ場だった。

 オトンの小林薫は若いときから晩年まで独りで演じていたが、実年齢より若く見え老け役がいまひとつに見えたのが不思議。リアップで毛がフサフサしたという台詞が取ってつけたように若い。恋人役の松たか子は手堅く、こんな美人で良い人なら別れたくないと思ってしまいそう。

 映画の出来とは無縁だが、豪華ゲストで脇を固めた競演者たち。役名もつかないチョイ役に小泉今日子、柄本明、板尾創路、宮崎あおい、松田美由紀、寺島進など数えきれないほどの顔ぶれだった。

 晩年の2人とその周りの人々が皆イイ人ばかりなのと、オカンの苦しむ姿を延々と描写するなどクライマックスへの意図が見え隠れするが、根底に流れる家族の絆や友情の素晴らしさなど人間愛に満ちた青春映画であった。
 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿