晴れ、ときどき映画三昧

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「緋牡丹博徒」(68・日)75点

2020-06-03 12:21:29 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)


 ・ 藤純子主演任侠映画シリーズ8作の第1作。


 鶴田浩二、高倉健という東映任侠映画の大スターが脇に回って藤純子を任侠スターとして育て上げたシリーズの第1作目。監督は「関の彌太っぺ」(63)の山下耕作。若山富三郎、清川虹子、大木実などベテランが脇を固め高倉健が特別出演している。

 明治の中頃、熊本・五木で一家を構える矢野一家の一人娘・竜子が殺された父の仇を求め、”緋牡丹のお竜”と名乗り賭場を流れ歩く・・・。

 佐久間良子・三田佳子に去られ、スター女優不在となってしまった東映が、当時22才の藤純子をスターに育てようと当時京都撮影所所長だった岡田が企画し、藤の実父・俊藤浩滋プロデューサーをくどきおこした起死回生作。

 冒頭の襲名披露にはじまり、仁義を切るときの凛としたした美しさと女を捨てたという台詞とはウラハラな健気な風情は、一気に観客の心を奪い彼女の出世作となっていく。

 義理と人情のしがらみの世界に生きながら不正には目をつぶらず立ち向かって行く姿は、当時学生運動の挫折で無常観に苛まれていた若者にも元気を与えた。
 健さんの背中の入れ墨で涙した世代も緋牡丹の入れ墨は控えめながら好感を持って受け入れられ、若山富三郎演じる熊坂虎吉や山本鱗一が演じた子分・フグ新のような気分にさせられる。

 第2作でメガホンを撮った鈴木則文の脚本も男と女の機微を絡ませる構成が巧みだ。豪華俳優の脇役陣が見せ場を作れるようなシチュエーションもキッチリとあって、喜怒哀楽を交えながら初々しいヒロインを盛り立てて行く。

 名匠・山下耕作は女の儚さ一途さを持ちながら度胸もあるというヒロインの人物像を的確に捉え、特に澄んだ眼の美しさと牡丹の白と赤の変化が深く印象に残る演出には定評がある。

 敵役として奮闘したのは大木実。実年齢では高倉健より6才年上ながら兄貴と慕い、這い上がるためには辻斬りまでした元会津藩の武士という役柄は、ウソをついてでも我が身を守ろうとする人間の弱さを演じている。

 ゲストの健さんは出番は少ないながら美味しいところは持って行く役柄。「私のために!」「違う、俺のためだよ」というラストシーンがそのあらわれ。

 大ヒットとなった4年間で8作のシリーズは藤純子の婚約引退発表で幕を閉じたが、東映任侠路線の隆盛期を飾る作品となった。
 監督は山下耕作2作品、加藤泰3作品、小沢茂弘2作品、脚本も担当した鈴木則文1作品と受け継がれ、俳優も鶴田浩二、高倉健、菅原分太、里見浩太郎、松方弘樹などがそれぞれ存在感を魅せファンを喜ばせてくれた。

 筆者には、少年時代からお馴染みの東映のマークで始まるわくわく感を映画館で最後に味合わせてくれた時代だった。

  
 

 


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