地下鉄道 コルソン・ホワイトヘッド(著)2017年12月発行
アフリカ大陸の各地から遠く海を渡り奴隷として米国に連れてこられ、
過酷で悲惨な運命を生きることを余儀なくされた人々の歴史の1ページを
生きた主人公の物語。
史実に基づきながらアメリカ南部の州の現実、奴隷の労働や日々の生活、
白人たちの意識と日常が織り交ぜられ語られていくのだが、
目を背けたくなる悲惨な情景が多く語られているにもかかわらず、
あまり落ち込むことなく読み進めることができたことに驚いている。
それは、構成力、表現力が素晴らしいからだろうと思うが、
本当に想定外、一度も途中で投げ出したくなることがなかった。
現在40言語に翻訳され、映画化も決定しているという、、、納得だ。
あらすじの一部を、訳者あとがきより抜粋転記
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19世紀前半、ジョージアの大規模農園(プランテーション)に住む15歳の
少女「コーラ」は奴隷だ。同じく奴隷の青年「シーザー」に、あるとき
逃亡を持ちかけられる。当時のアメリカは、古くからの大農園が多い南部は
奴隷を使役する州で、北部はそれに反対する自由州だった。この奴隷をめぐる
対立が大きな原因の一つとなり、1860年に南北戦争が勃発、北軍が勝利を納め
65年には奴隷制が廃止されることになるのだが、物語の舞台とされている時代
からはまだ30年ほど先のことである。
奴隷州から自由州へ。州境を超えて北へ逃げれば自由になれる決まりだった。
おぞましい南部の奴隷地獄にあっても奴隷制廃止論者たちは秘密裏に活動し、
奴隷たちの逃亡を助けた。それが「地下鉄道」と呼ばれる組織である。
この時代、地上の鉄道は徐々に敷かれはじめていたが、地下に走るようになる
のはまだ先で、「地下鉄道」というのは暗号名(コードネーム)だった。
南部で奴隷の逃亡を助けることは違法であり、見つかれば白人といえども厳罰を
免れなかった。すべては符牒と暗号でやり取りされた。
逃がすための奴隷は「積み荷」、その輸送を助けるのは「車掌」、そして奴隷
を匿う小屋は「駅」と呼ばれた。
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こうした地下鉄道の組織の助けも借り、シーザーの誘いに応じ、
「コーラ」は勇気を奮い北への逃亡を決意し行動する。
しかし、その道程もまた恐ろしく過酷で厳しく、幾多の困難、生死の境を
乗り越えねばならなず、また、彼女を助けた幾人もの人たちが犠牲となる姿を
目にすることにも耐えねばならなかった。
そんな過酷で険しい状況の中にあっても、逞しく生き延びようとする
コーラの視線を通し描かれたアメリカ南部の暗く悲しい歴史の物語。
昨今、現政権下で再び人種差別問題が再燃しつつあるアメリカで、本書が
多くの人々に読まれて支持さているというのも、意味のあること。
寒気に襲われるような残酷なシーンが多く現れる反面、寓話的な場面や話も
ちょいちょい挟まれていることで、つい読み進んでしまった気がする。
本書には、人種差別問題以外にも、現代に生きる我々も共感し考えさせられる
出来事、要素などが小説の根底に流れていて、読み応え充分。
今この時期にこそ! の小説かも。
わがまま母