誕生日パーティー ユーディト・W・タシュラー(著)2021年5月発行
本書は、昨年から気にはなりつつ、実際に手に取るまで時間がかかっていた一冊。
カンボジアから命がけでオーストリアに逃れ難民として暮らしていた男性を主人公
とした小説、と知った時点から、半年ほど読むべきか迷っていました。
学生時代に映画『キリング・フィールド』を観て、ポルポト時代の残虐性、凄惨さを
衝撃的な映像で知ってしまったが故に、読み始めるには心の準備と覚悟が必要で。
いざ思い切って読んでみると、やはり中盤から回想シーンに当時のカンボジアで、
クメール・ルージュ支配下にあった街や農村、住民たちに課せられた理不尽で過酷な
状況が描かれてきて、過去の映画の記憶にある映像が自然と浮かんできて辛かった。
ある程度は覚悟してはいたものの、若い頃に受けた衝撃は簡単には消えないものなん
ですねえ。
こうして、個人的にはキツい想いを噛み締めつつ読んだ本書ですが、小説として、
素晴らしく、物語の構成、一人ひとりの心の描き方、展開、とても上手く出来ています。
後半にかけてスリリングな謎解きもあり、男女、夫婦、親子、それぞれの関係が愛憎
入り混じる様が細やかに描写され、それぞれの視点から堪能できる小説になっている。
ただ粗忽者な私は、「テヴィ」の思い違いと同様、主人公と彼の兄を勘違いして
読み進んでいたみたいで途中「あれチョッと変?」と気づき、後半を読み直し納得。
それにしても、せっかくの50歳の誕生日に、何よりも愛する子供達によって
過去を忘れ今の自分を生きるために、最も会いたくない人物を招待して、
対面する羽目になるなんて、、、愕然としショックでしかない。
そんな登場人物各人「本当にメンタル強いな〜、、、」とつくづく尊敬してしまう。
何度も読み返したいとは思いませんが、読み応えある一冊ではありました。
わがまま母
— 以下、集英社の案内文 —
謎めく敵意。食い違う過去。彼女は何を知っている?
オーストリアの田舎に暮らす、カンボジア移民のキム。
その誕生日の祝いの席に突然現れた女性は、少年の頃にポル・ポト政権下の
カンボジアを共に逃れた妹のような存在であり、
同時にキムが最も会いたくない人物だった……。
かつての過酷な日々に、いったい何が起こったのか?
『国語教師』でドイツ推理作家協会賞を受賞した著者による、最新文芸長編。