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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

2230冊目:高橋祥友『群発自殺』

2016-01-31 20:45:40 | 本と雑誌

2230冊目はこの本。

高橋祥友『群発自殺 流行を防ぎ、模倣を止める』(中公新書、1998年)

この本は精神医学の立場から、ある人の自殺に関するマスメディアを通じた情報の拡散が、次々に類似の自殺を引きおこすという現象について検討した本です。

それこそ、1980年代半ばや90年代半ばの中学生いじめ自殺の続発、「ユッコ・シンドローム」と言われたアイドル歌手・岡田有希子の自殺とそのあとの後追いでの若者の自殺などが、この本で取り上げられている主な事例です。

また、このことにかかわって、この本が書かれた時点での諸外国の自殺に関するマスコミ報道のガイドラインや、日本での自殺報道の問題点なども、精神科医の立場から「自殺の連鎖を防ぐ」という観点から綴られています。

この本を読んで「なるほど」と思う部分もいくつかありました。やはり、ある子どもや若者に関する自殺のあと、同時期に似たような年代の人たちの自殺が多発する現象が、マスメディアの報道によって引き起こされてる側面というのは、ゼロではないと思います。その自殺報道をきっかけにして「こういう道もある」と思った人もいるのでしょう。そういう意味では、確かに情報の出し方を慎重にしなければいけない部分もあるでしょう。

ただ、報道を見て当事者たちがそのように思うに至る背景要因としての生活困難、ここはなぜ、著者は問題にしないのかな・・・なんてことも、この本を読んで思いました。また、当事者サイドに立って、マスコミを通じて、その生活困難な状況を改善して自殺予防を行ってほしいという訴えをすること自体も、著者たちはダメだというのでしょうか。気をつけないと、この著者たちの議論は、ある種の「問題の隠ぺい」にもつながりかねない側面があるな・・・と、一読して思った次第です。

群発自殺―流行を防ぎ、模倣を止める (中公新書)


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