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京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

大阪の「高校授業料完全無償化」論議で出てくる「教育の質」ということばへの違和感―もう一度、関係者は根本的なところから考え直すべきでは?―

2023-07-01 19:44:16 | 受験・学校

大阪維新の提案する「高校無償化」はいったん止めたほうがいいのでは?―「識者」もそのくらい言おうよ― (2023年6月20日に私が書いたこのブログの記事)

以前もこのブログで、上記の記事を配信しましたが、あらたに思うところがありましたので、下記のとおり書いておきます。なお、下記の内容はフェイスブックに今日書いたことに加筆修正を加えて転載したものです。

<以下、あらためて考えていること=転載部分を含む>

この高校授業料完全無償化をめぐる「教育の質」談義にも、私はずっとひっかかってます。

それは維新や大阪府側にも、私学経営陣や私学に我が子通わす保護者の側にも、そして「自称・高校無償化問題の第一人者」なる研究者たちの側にも。

たとえば国公私立に関係なく、「18歳で若者を<いっぱしのおとな>にするための教養形成」を大阪の高校教育では徹底的にやる。

その内容は、たとえば18歳選挙権と主権者教育、消費者教育や労働者の権利教育、社会保障の権利や手続きに関する理解、外国から来た人や障害のある人など多様な人々とともに生きる社会をどうつくるかとか、差別やヘイトスピーチの問題をどう考えるか、自らの性や健康に関することや多様な家族の在り方、「ウイルスとはなにか?」「核エネルギーをどう考えるか?」「自然環境と災害」といった科学的な学び等々。

内容的にはいろいろ考えられるけど、でも「18歳で若者を<いっぱしのおとな>にするための教養形成」を、大阪の高校では「国公私立」に関係なくやるのなら、「高校教育のその部分は無償化すべきでしょう」と私なら言いたくなりますね。

そういう点では、私のうがった見方かもしれませんが…。

一部の大阪の高校関係者(国公私立に関係なく)のがんばりで、相対的にこういう「18歳で若者を<いっぱしのおとな>にするための教養形成」って、どちらかというと「進学を目指してない生徒の多い高校」のほうが「質の高い」ことやっていて、むしろ「進学実績上げろ」なんてこというてる高校のほうが「低レベル」だったのではないか。私としては、そう言いたくなります。

他方で、たとえば今の大阪の高校授業料完全無償化談義で出ているように…。

「進学実績上げろ」とか「偏差値高い」とか、「グローバル人材養成」とか。そういうことを「教育の質」談義で問題にするなら、「そんなもん保護者負担で、一千万負担しようが二千万出そうが、勝手にやれ」です。また、もしも「そういう進路選びたいけど経済的困難のある家庭」があるのなら、大阪府として責任もって「奨学金だせ」「学費減免してやれ」ですわ。

なにしろ高校生はすべて「グローバル人材」にならなきゃいけないんですか? 「進学校」に通わないといけないんですか? そんなことないですよね。

でも、どの子どももいずれ18歳になって、<いっぱしのおとな>としての教養がないと、この社会でご本人が生きていく上でも困る場合がある。社会全体としても、そういう教養ある<いっぱしのおとな>が増えたほうが、土台がしっかりしたものになる。

だからこそ、大阪府では高校授業料完全無償化で、国公私立に関係なく、高校生を「18歳を<いっぱしのおとな>に育てるための教養形成」をやるというのなら、私は賛成。

でも「グローバル人材要請」とか「進学実績上げろ」とかいう話でこの議論やるなら、「完全無償化はこれ以上、どーでもええわ」「自分らで勝手に一千万でも二千万でも、保護者が負担しろ」「負担できない家庭には、大阪府が奨学金だせ」というしかないですわ。

ただ…。こういう教育内容の問題もからめて、いま、維新や大阪府側も、私学経営陣も私学に我が子通わす保護者の側も、そして「自称・高校無償化問題の第一人者」なる研究者も、十分な議論やれてないですよね?

あたかも「高校教育の質=進学実績や偏差値の高さ」を前提にした議論とか、「グローバル人材育成やるような私学に、経済的困難な世帯の子どもも行けたら、それでいい」とか。そういうレベルで議論しているようにしか、脇から見ていると「見えない」んですよ。「こんな議論の内実で、ほんまにええの?」と、脇から見ていると議論のレベルの低さに「唖然」とします。

ついでにいうと、下記の関西テレビの報道を記事化したものを見ると、はじめて吉村大阪府知事は、私学関係者とテレビの場で対話したとか。大阪維新の「目玉」施策として「高校授業料完全無償化」を実現しようとしているわりには、かなり対応が遅すぎる。

本来、高校授業料完全無償化を早急にやりたかったのであれば、今年春の地方選挙の前から何度も、大阪維新の会及び大阪府として、私学関係者と議論をつめておかないといけなかったのではないですか? そこを「手抜き」しているからこそ、今、いろんな問題が起きているのでは? 

「議会多数派と首長をおさえていたら好き勝手にできる」という思い上がりが大阪維新の会関係者にあるのなら、この私学を含めた高校授業料完全無償化問題が「大きなつまづきのきっかけ」になると思います。

なおかつ、そもそも大阪維新の会や日本維新の会関係者が、全国各地で「大阪の実績を日本全体に」といって「高校授業料無償化」を提案してきた経過があるなら…。「今頃、完全無償化とかいってるのは、いままで言ってきたこととどのように整合性があるのか?」と、私なら問いたくなります。

こういうことを、吉村大阪府知事がテレビ番組に出演したときに「ツッコミ」ひとつ入れられない。そんな大阪のテレビ各局を含む報道各社の在り方にも、私としては疑問を抱きます。

吉村知事 関西テレビ番組で“初めて”私学校長と直接対話 「教育の質は大切、良い制度作りたい」(関西テレビ2023年6月30日配信、ヤフーニュース)

以上でひとまず、あまりにも「唖然」とする議論のレベルなので、私の意見として、大阪の高校授業料完全無償化問題に対して思ったことを、今日も書き記しておきます。



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